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最弱属性の俺、空気を圧縮したら一撃で最強になった~空気魔法から始まる異世界魔法革命~  作者: 百花繚乱


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第65話 敗北

音が遠い。耳鳴りのような残響だけが、頭の奥で揺れている。

視界はぼやけ、輪郭が曖昧だ。それでも、体に伝わる衝撃の余韻だけははっきりしている。

地面に叩きつけられたまま、しばらく動けなかった。

肺がうまく動かない。息を吸っているはずなのに、空気が足りない感覚が続く。

「……っ」ようやく呼吸が戻り、ゆっくりと体を起こす。

遅い。自分でも分かるほど、動きが鈍い。

視界の先では、戦いが続いていた。

仲間が前に出ている。俺を庇う形で、敵の攻撃を受け流している。

だが、防戦一方だ。押し返す余裕はない。

「下がれ……!」声を出すが、思ったよりもかすれていた。届いているのかも分からない。

それでも、立ち上がる。足元がふらつく。

空気の流れが、まだ掴めない。いつもなら、無意識に感じ取れる圧力の変化が、今は断片的にしか分からない。

それでも。「まだ、やれる」そう言い聞かせて、魔力を引き上げる。

残っている量は問題ない。問題は、使い方だ。

さっきの失敗が、頭に残る。広域制御は危険だ。再現できない。

なら、やるべきは一つ。単純な一撃。最短で、最大の威力。

「……真空斬撃」低く呟き、空気を削る。

局所に集中する。余計なことは考えない。

一点だけを捉える。空気の層を剥がすように、薄く、鋭く。

今度は、乱流の影響を受けにくい形で。

術式が組み上がる。感触は悪くない。いける。そう判断した瞬間だった。

敵が動いた。こちらに向かってではない。わずかに横へずれる。

だが、その動きに合わせて、もう一人が前へ出る。連携。

「……来る」分かっている。それでも、止められない。

ここで止めれば、何も残らない。俺は術式の完成を優先した。

一瞬だけ、視界から敵が消える。次の瞬間。圧力の流れが、崩された。

「……!」術式の核に触れられたわけではない。

だが、周囲の空気の流れを乱され、真空の成立条件が崩れる。

あと一歩だった。その“あと一歩”が、届かない。

強引に発動する。未完成のまま。衝撃が走る。だが、威力が足りない。

敵は避けず、受け流した。完全に殺しきれていない。

「くそ……」舌打ちが漏れる。

その隙を、逃さない。敵が踏み込む。速い。今度は完全に捉えられている。

防御に回す。空気を圧縮し、壁を作る。だが、薄い。

さっきの衝撃で、制御が甘い。一撃で破られる。

体が再び弾かれる。今度は、受け身も取れず、地面に転がる。

土の匂いが近い。視界が揺れる。

「……もう、いい!」誰かの声が飛んだ。

仲間の一人だ。

「撤退だ! これ以上は持たない!」その言葉が、やけに鮮明に響く。

撤退。その選択肢が、頭の中で形になる。

だが、同時に別の声もある。ここで引けば、負けだ。

任務は未達。評価も落ちる。

それよりも。「……まだ、やれる」口に出す。

だが、その言葉に力はなかった。体が動かない。思考が追いつかない。

さっきから、ずっと遅れている。敵は待っている。こちらの判断を。

そして、その遅れを確実に突いてくる。

「……隊形、崩れてる」冷静な声が入る。

別の仲間だ。

「これ以上は危険だ。引くぞ」現実を突きつけるような言葉。

反論が出ない。正しいと分かる。だからこそ、苦しい。

「……撤退、する」ようやく言葉を絞り出す。

決断が、遅い。それも理解している。だが、もう選択肢はない。

仲間が動く。後退の動きに入る。互いにカバーしながら、少しずつ距離を取る。

敵は追ってこない。一定の距離を保ったまま、こちらの動きを見ている。

その余裕が、何よりも重い。完全に、格下として扱われている。

森の奥へと退く。視界から敵の姿が消えるまで、緊張は抜けない。

やがて、完全に距離が開いたところで、ようやく足が止まる。

誰も、すぐには言葉を発さない。荒い呼吸だけが、静かに響く。

「……無事か」誰かが確認する。

簡単な応答が返る。全員、生きている。それだけは、救いだった。

だが、それだけだ。「……」

俺はその場に立ったまま、何も言えなかった。

頭の中で、さっきの戦いが繰り返される。

エアブレード。ソニックブーム。真空斬撃。どれも、間違っていない。

理論は成立している。実際に、これまで結果も出してきた。

それでも勝てなかった。理由は分かっている。

発動が遅い、戦場に適応できていない、連携がない。

全部、理解している。だが、それを“戦っている最中に”処理できなかった。

それが、敗因だ。

「……」拳を握る。力が入らない。悔しさよりも先に、空虚さが来る。

何もできなかった。その事実だけが、重く残る。

「何が……足りない」誰に向けるでもなく、呟く。

答えは出ない。ただ一つだけ、確かなことがあった。

今のままでは、勝てない。それだけが、揺るがない現実として残っていた。

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