第21話 研究コンビ
爆発の跡は、思った以上にはっきりと残っていた。
訓練場の端、抉れた地面と焦げた痕。ほんの小規模なものだが、これがただの偶然ではなく、再現可能な現象であることは、俺たち自身が一番よくわかっている。
「……こうして見ると、やっぱりそれなりに威力あるよね」
リナがしゃがみ込み、指先で地面の焦げ跡をなぞる。
「当たればな」
「当たればって……当てる気ないの?」
「あるに決まってるだろ」
俺は軽く肩をすくめた。
「ただ、今のままだと狙って当てるには精度が足りない」
「なるほどねー」
リナは立ち上がり、軽く伸びをする。
「でもさ、普通に考えてあれ結構強いよ?」
「強いのは認める」
「でしょ?」
「だが不安定だ」
俺は地面に残る痕を見下ろした。威力はある。だが、ばらつきがある。
さっきの実験でも、同じようにやったはずなのに結果が微妙に違った。
「再現性は上がってきてるが、まだ“魔法”として完成してるとは言えない」
「うーん……」リナは腕を組み、少しだけ考える。
「つまり、もっと安定させたいってこと?」
「そうだ」
「で、そのためには?」
「整理する必要がある」
俺は指を三本立てた。
「一つ、圧縮量」
「うん」
「二つ、火を入れるタイミング」
「うんうん」
「三つ、魔力制御」
「……全部じゃん」
「全部だな」即答する。
リナは一瞬ぽかんとしたあと、吹き出した。
「めんどくさ!」
「研究はそんなもんだ」
「いや、もうちょっとこう……なんか楽な方法ないの?」
「ない」
「即答!」軽く笑い合う。
このテンポは嫌いじゃない。だが同時に、俺は少しだけ考えていた。
一人でやっていたときとは違う。作業量が増えている。いや、正確には分けられる部分がある。
「……分担するか」
「ん?」
リナが首を傾げる。
「空気は俺がやる」
「うん」
「火はお前がやれ」
「それは最初からそうじゃない?」
「そうだな」
だが、それだけじゃない。
「ただし、役割を完全に分ける」
「完全に?」
「お互いに干渉しない」
リナが少しだけ真剣な顔になる。
「……なるほど」
「今まではタイミングを合わせるだけだった」
「うん」
「だが、それだとズレる」
「たしかに」
「だから――」
俺は手をかざす。
「空気は完全に固定する」
「その中に私が火を入れる?」
「そうだ」
「それなら……」
リナがにやりと笑う。
「ちょっとやりやすそう」
「精度も上がるはずだ」
役割を分ける。それだけで制御はシンプルになる。それが研究の基本だ。
リナは少しだけ考えたあと、ふっと軽く笑った。
「じゃあさ」
「なんだ」
「これ、ずっと組む?」
唐突だった。だが軽い口調のまま、真っ直ぐこちらを見る。
俺は一瞬だけ黙った。一人でやる方が楽だ。自分のペースで進められる。誰かに合わせる必要もない。
それが今までのやり方だった。だが、今回に限って言えば、違う。効率がいい。明らかに。
「……その方が効率はいい」
結論はすぐに出た。リナが少しだけ肩をすくめる。
「効率かー。ロマンじゃなくて?」
「ロマンで研究は進まない」
「つまんないやつだなー」
そう言いながらも、楽しそうに笑う。
「まあいいや」
軽く手を振る。
「面白いからOK」
その一言で、妙に納得した。理由は違うが、目的は同じだ。未知を試す。それだけで十分だ。
「……じゃあ決まりだな」
「うん、決まり」
あっさりとした合意。だがそれでいい。余計な言葉はいらない。
俺たちはそのまま、次の実験の準備に入った。
「じゃあさっそくやろう」
リナが手を上げる。指先に炎が灯る。
「今度はどうする?」
「さっきの方式でいく」
俺は空気に意識を向ける。
圧縮。
維持。
そして、形を崩さないように固定する。
「……できた」
見えない塊が、そこにある。さっきより安定している。
「リナ」
「いつでも」
炎がゆっくりと近づく。
接触。ボッ。火が一気に広がる。だが崩れない。
そのまま、パンッ!鋭い音とともに、前方へ衝撃が飛ぶ。地面に小さな穴が空く。
「……おお」
リナが目を輝かせる。
「今の、結構いい感じじゃない?」
「再現できてるな」
俺も頷く。
さっきより明らかに安定している。ばらつきが少ない。方向性が揃っている。
「これなら」
言いかけて、少しだけ言葉を選ぶ。
「魔法として成立する」
「つまり?」
「使える」
リナが満足そうに笑う。
「いいじゃん、それ」
俺はもう一度、地面の跡を見た。小さい。だが確実に破壊している。これがさらに強くなれば、
「……戦い方が変わるな」
「でしょ?」
リナが当然のように言う。
「普通の魔法じゃないもんね、これ」
「ああ」
その通りだ。エアショットでもない。エアブレードでもない。別の魔法。
新しい系統。それが今、目の前にある。
「……これ、完成させるぞ」
自然と口に出ていた。
リナが頷く。
「もちろん」
迷いはない。
「で、次どうする?」
「威力を上げる」
「いいね」
「そのあと安定させる」
「うん」
「そして実戦」
リナがにやりと笑う。
「楽しみだね」
「……ああ」
俺も小さく頷いた。
一人では届かなかった領域。だが今は違う。空気と火。理屈と感覚。それが噛み合っている。
「……これ、かなりいけるな」
「でしょ?」
リナが得意げに言う。その横で、俺は静かに確信していた。この研究は、まだ途中だ。
だが確実に別の段階に入った。空気魔法は、ここからが本番だ。




