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最弱属性しか使えない俺、魔法を科学で研究したら世界最強になりました ~空気魔法から始まる異世界魔法革命~  作者: 百花繚乱


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第2話 俺は空気を観察する

入学式と適性検査が終わったあとも、胸の奥に残ったざらつきは消えなかった。

最弱属性。生活魔法。戦闘では役に立たない。

あの講堂で向けられた視線と、ひそひそ声は、思っていた以上に心に刺さっていたらしい。寮へ戻る道すがらも、同じ新入生たちの会話が耳に入るたび、どうしても意識してしまう。

「火属性のレオン、すごかったよな」

「水と雷も結構いたし、今年は当たり年じゃない?」

「でも空気属性って初めて見たかも」

「あれ、何に使うんだ?」

笑いを含んだ声が、背中をかすめていく。

俺は足を止めなかった。止めたところで何かが変わるわけじゃないし、反論したところで今の俺には実績がない。空気魔法の可能性を語ったところで、負け惜しみにしか聞こえないだろう。だったら、やることは一つだ。確かめる。自分の魔法を、自分の目で。

その日の夕方、俺は寮の荷物整理もそこそこに、学園の訓練場へ向かった。

王立魔導学園の敷地は広い。座学用の校舎、実技棟、図書塔、学生寮、食堂棟。さらに属性別の訓練区画や、小規模な演習場まである。さすが王国でも最高峰の魔法教育機関というべきか、設備だけ見れば前世の大学の研究施設にも近いものがあった。

もっとも、そこを歩いているのは白衣の研究者ではなく、杖やロッドを持った学生たちなのだが。

訓練場の一角では、すでに何人かの新入生が自主練をしていた。

火属性の生徒が手のひらに火球を浮かべ、的に向けて飛ばしている。別の場所では、水属性の女子生徒が細い水流を操り、空中の輪を正確に通していた。土属性の男子は地面から小さな壁をせり上げ、教師らしき上級生に感心されている。

どれもわかりやすく“魔法”だった。見栄えがいい。強そうだ。周囲が期待するのも無理はない。

「……で、俺は空気か」

誰にも聞こえないように呟いて、空いている端の区画へ入る。

まずは教本通りにやるべきだろう。

入学時に配られた基礎魔法の案内書には、全属性共通の魔力循環法と、属性別の初歩的なイメージの乗せ方が簡単に記されていた。空気属性の項目は特に短く、「周囲の空気に干渉し、微細な流れを生むことを基本とする」としか書かれていない。

雑だな、と思う。

いや、この世界ではそれで十分なのかもしれない。弱い属性と見なされてきた結果、深く研究されていないのだろう。

俺は案内書を閉じ、深く息を吸った。魔力を意識する。

身体の奥に沈んでいる熱とも光とも違う感覚を、ゆっくり腕へ、手のひらへ流していく。昨日の適性検査でも感じたものだ。まだ上手く言葉にできないが、血流とも筋肉とも違う、自分の内側にある“もう一つの流れ”のようなものだった。

「空気を……動かす」手のひらを前へ向ける。

イメージは、押すこと。いや、ただ押すだけでは駄目か。目の前に満ちている見えないものに、自分の魔力で触れるような感覚で。

ふわっ、と弱い風が起きた。地面の砂がわずかに転がり、端に落ちていた枯れ葉が一枚だけくるりと回る。

「……弱っ」

思わず本音が漏れた。

いや、出た。たしかに出た。魔法は発動している。だが、これでは講堂で馬鹿にされた“生活魔法”という評価を否定できない。うちわで扇いだ方がまだ強いのではないかと思える程度の風だった。

もう一度試す。

今度は魔力を少し強めに流し、前方へ押し出す意識をはっきり持ってみる。

風はさっきより少しだけ強くなったが、それでも的を倒すにはほど遠い。吊るされた布の端が揺れる程度で、攻撃として成立する未来が見えなかった。

「やっぱりしょぼいな」後ろから、わざとらしく抑えた声が聞こえた。

振り向くと、同じ新入生らしい男子が二人、隣の区画からこちらを見ていた。適性検査のときにも講堂にいた顔だ。片方はたしか土属性、もう片方は風属性だったはずだ。

「空気属性って、ほんとに風しか起きないんだな」

「風属性の下位互換じゃん」

「ていうか洗濯物乾かすのには便利そうだよな」

二人は顔を見合わせ、小さく笑う。腹が立たないわけではない。けれど、それ以上に引っかかった言葉があった。

風属性の下位互換。その認識自体が、もしかすると違うのではないか。

俺は何も言い返さず、代わりに視線を足元へ落とした。砂、小石、枯れ葉。さっき風で動いたものと、ほとんど動かなかったもの。

同じ“空気を動かす”でも、対象によって反応が違う。

ごく当たり前のことだ。軽いものほど動きやすく、重いものほど動きにくい。けれど今の魔法は、それだけでは説明しきれない妙な偏りがあるように感じた。

枯れ葉はよく舞う。砂も表面だけなら流れる。だが、地面に置いた布の端は意外なほど揺れ方が鈍い。なら、風量そのものではなく、空気の“当たり方”に差があるのかもしれない。

俺は近くにあった木箱から、訓練用の軽い紙片を数枚借りた。ついでに細い木片と、小さな金属球も一つ持ってくる。

「何してんだ?」

「遊び始めたぞ」

後ろでまた笑い声がしたが、無視する。

紙片を縦に立てる。次に木片を置き、最後に金属球を並べる。魔法を使って順番に反応を見るつもりだ。

手のひらを向け、今度は最初から“風”として出そうとせず、目の前の空間のどこが動くのかを観察するつもりで魔力を流す。

紙片がすぐに倒れた。木片は、少し遅れてかすかにずれる。

金属球は、ぴくりとも動かない。

「……なるほど」軽いものには効く。重いものには効きにくい。そこまではいい。

だが、二回、三回と繰り返すうちに、俺は別のことに気づいた。

紙片の倒れ方が一定ではないのだ。

真正面から押されたように倒れるときもあれば、片側だけが震えて、ねじれるように落ちるときもある。風ならもっと広く拡散して当たるはずなのに、妙に“偏った当たり方”をしている気がする。

「……面じゃなくて、流れが寄ってるのか?」

前世の理科室でやった実験を思い出す。煙の流れ、水槽の中の色水、空気の対流。目に見えないものも、可視化すれば癖があった。なら魔法で動かす空気にも、きっと何かしらの偏りがある。

俺はしゃがみ込み、地面に散った砂を指で集めた。そして薄く一直線に撒く。

そこへ魔法を使う。

すると砂は一様に飛ばず、ある一点に向かってわずかに寄せられたあと、遅れて外へ散った。

その動きに、背筋がぞくりとした。ただ前へ押し出しているんじゃない。

最初の一瞬、空気が“集まって”いる。

「……そうか」思わず声が漏れる。

魔法の基本挙動は送風ではないのかもしれない。いや、少なくとも俺の空気魔法は、ただの風起こしではない。空気そのものを移動させるというより、局所的に偏らせている感覚がある。

もしそうなら。もし本当にそうなら押すだけじゃない。集められる。

目の前の空間から、空気を一点へ寄せることができるなら、その先にあるのはただの微風じゃないはずだ。

「圧縮……」

前世の知識が自然と頭に浮かぶ。

空気は目に見えないが、詰め込めば圧力になる。圧力差は力になる。ポンプも、注射器も、爆ぜる炭酸の音も、根っこは似たようなものだ。もちろん、この世界の物理法則が前世と完全に同じとは限らない。それでも、現象として近いものが起きる可能性は十分ある。

俺は再び手をかざした。今度は“風を前に送る”のではなく、“目の前の一点へ集める”ことだけを意識する。球を作るように。見えないものを、見えないまま握り込むように。

空気が、わずかに張り詰めた。気がした。

紙片が小さく震える。砂が一点へ寄る。だが次の瞬間、感覚はすぐに散ってしまった。保持できない。何かを掴みかけたと思ったのに、水面を手でつかむみたいにすり抜けていく。

「くそ……」難しい。だが、今のはただの失敗ではない。

確かに手応えがあった。風を起こすのとは違う、別の挙動だ。しかも、講堂で聞かされた“空気を少し動かすだけの生活魔法”なんて説明より、ずっと面白い。ずっと応用の余地がある。

「おい、まだやるのかよ」

「そんな弱い魔法、頑張っても意味ないだろ」

背後の二人が呆れたように言う。

俺は振り向かずに答えた。「そうかもな」

自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

「でも、確かめてもいないのに弱いって決める気はない」

一瞬、背後が静かになる。何か言い返してくるかと思ったが、二人はつまらなさそうに鼻を鳴らしただけだった。

「変わってるな、お前」

「まあ頑張れよ、生活魔法使い」

足音が遠ざかっていく。それを聞き流しながら、俺は訓練場の空気に意識を戻した。

風は弱い。攻撃力なんてまだない。今のままでは、たしかに戦闘で役立つとは言い難いだろう。

でも、弱いから終わりじゃない。むしろ、何も知られていないからこそ始められる。

俺は地面にしゃがみ込み、訓練場の隅に置いてあった木炭を借りて、石床へ簡単なメモを書いた。

軽い物体ほど反応大。

風は一様ではない。

初動で空気が寄る。

維持は困難。

圧縮の可能性あり。

書いてみると、頭の中が少し整理される。

観察。仮説。検証。

前世で染みついた考え方が、こんな形で役に立つとは思わなかった。

魔法の才能そのものは、たしかに生まれ持ったものなのかもしれない。けれど、その使い方まで生まれで決まるなんて、誰が決めた?

空気魔法が最弱だというのなら、その根拠を見たい。

研究もされず、試しもされず、使い道がないと決めつけられてきただけじゃないのか。

夕暮れの光が訓練場の床を赤く染める。

白い息が出る季節ではないのに、肌に触れる空気の冷たさを妙にはっきり感じた。目には見えない。けれど、たしかにそこにある。どこにでもあり、誰の周りにも満ちている。

その見えないものに、俺は手を伸ばす。今度は魔法を使わず、ただ空間を見つめる。

そして、ゆっくりと息を吐いた。

「動かせるなら……押し込められるはずだ」

それはまだ、答えではなかった。

仮説にすぎない。けれど、最弱属性だと笑われた俺の魔法は、今日たしかに“ただの微風”では終わらなかった。

空気は動く。偏る。集まる。なら、その先もある。

俺は訓練場の隅に置いた紙片を見つめながら、静かに拳を握った。

次に試すべきことは、もう決まっている。空気を、一点に集める。圧縮する。

もしそれができれば、魔法はただの送風じゃなくなる。目に見えない力は、形を持った一撃に変わるかもしれない。

夕陽が沈み、訓練場に長い影が落ちる。その中で俺はもう一度、誰にも聞こえない声で呟いた。「次は、圧縮だ」

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