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最弱属性の俺、空気を圧縮したら一撃で最強になった~空気魔法から始まる異世界魔法革命~  作者: 百花繚乱


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【番外編】第1話 炎の優等生

本編完結後のおまけとして、番外編を少しずつ更新していきます。


本編では描ききれなかった、仲間たちの視点や過去、

そしてあの戦いの裏側などを中心に書いていく予定です。


第一話は、火属性のリナ視点。

主人公と出会う前後の、彼女から見た“違和感”の始まりになります。

炎は、嘘をつかない。

リナがそう思うようになったのは、物心がついた頃からだった。

火は熱を持ち、形を持たず、それでも確かな力としてそこにある。

努力すれば大きくなり、制御すれば美しくまとまる。

分かりやすい。だから、好きだった。

「リナ、もう一度」

演習場に響く教官の声。

リナは短く頷き、手のひらに魔力を集める。

空気が震える。次の瞬間、赤い炎が生まれた。

小さく、しかし安定した火球。

揺れは最小限。温度も均一。制御は完璧。

「放て」

指示と同時に腕を振る。

火球が一直線に的へと飛び、中心を焼き抜いた。

焦げた匂いが、わずかに漂う。

「……いいな」

教官が低く言う。

周囲の視線が集まる。羨望と、少しの悔しさ。慣れている。

火属性の中でも、リナは頭一つ抜けていた。

魔力量も、精度も、反応速度も。

だが、それ以上に。

「綺麗だね、今の」

隣で見ていた生徒が言う。

「無駄がない」

リナは少しだけ肩をすくめた。

「当たり前でしょ」

特別なことはしていない。教わった通りに、何度も繰り返しただけだ。

炎は裏切らない。積み重ねた分だけ、強くなる。それだけの話だ。

「次、風属性」

教官の声が響く。

何人かの生徒が前に出る。その中に、エリオットの姿もあった。

風属性の優等生。理論に強く、魔法の精度も高い。

彼の魔法は、リナとは違う意味で美しい。空気の流れを読み、無駄なく制御する。

「見てて」

エリオットが軽く言う。

「今日のは、かなりいい」

リナは腕を組み、頷いた。風属性は嫌いじゃない。

火ほど分かりやすくはないが、理屈としては納得できる。

エリオットが魔力を展開する。空気がわずかに歪み、目に見えない刃が形成される。

次の瞬間。風の刃が放たれ、的の表面を深く削った。

「……安定してる」

リナが呟く。

「だろ?」

エリオットが笑う。

「流れと圧力を一定に保てば、威力も落ちない」

教科書通りの理論。それをきちんと実現している。

「いい感じ」

リナは素直に評価した。

火も風も、やっていることは違うが本質は同じだ。魔力を制御し、現象を安定させる。

正しい手順を踏めば、結果はついてくる。それが魔法だ。

「次」

教官が視線を動かす。

「……空気魔法」

一瞬、間が空いた。

誰も前に出ない。というより、出る意味がない。

空気魔法は、ここではほとんど扱われない。

補助。微調整。訓練用。戦闘で使う者はいない。

「……」

その時、ようやく一人が前に出た。

あの男だった。名前は確か――

「……あいつ」

リナは小さく呟く。

授業中、よく窓の外を見ているやつ。ノートに意味の分からない図を描いているやつ。

あまり印象は良くない。やる気があるのかないのか、分からない。

「おい、大丈夫か?」

後ろの誰かが小声で言う。

「一応、やるらしいぞ」

笑いが混じる。

無理もない。空気魔法で的を壊すなど、ほとんど不可能だ。

教官も、少しだけ様子を見るような目をしていた。

「……やれ」

短い指示。

男は、頷いた。

だが、すぐに魔法を使うわけではなかった。その場に立ったまま、じっと的を見ている。

いや、違う。

「……何、あれ」

リナが眉をひそめる。

視線が、的ではない。その周囲。さらに言えば、空間そのものを見ているように見える。

風でもない。炎でもない。何も起きていない場所を、じっと観察している。

「おい、何してんだ」

誰かが声を上げる。だが、男は動かない。ただ、見ている。

数秒。十秒。教官が口を開きかけた、その時。

男が、わずかに手を動かした。

風が起きたわけではない。炎もない。音もない。

ただ、的の手前で、紙片がふっと揺れた。

演習用に置かれていた、軽い紙。それが、まるで何かに押されたように、軌道を変える。

次の瞬間。紙が、的に当たった。それだけだ。

何も壊れていない。何も燃えていない。静かなまま、終わった。

「……は?」

誰かが呟く。

リナも、同じだった。意味が分からない。

攻撃ですらない。ただ、紙が当たっただけ。

だが、男はその紙をじっと見ていた。落ちる軌道。揺れ方。空気の動き。

全部を、確かめるように。

「……何がしたいの」

思わず口に出る。

男は聞こえていないのか、反応しない。ただ、小さく呟いた。

「違うな」

その一言だけ。

その声は、悔しそうでもなく、満足そうでもなかった。

ただ、確認しているだけの声。

まるで今の現象が、失敗かどうかを測っているみたいに。

教官が咳払いをする。

「……以上だ」

それで終わりだった。ざわめきが広がる。

「なんだよ今の」

「意味分からん」

「やる気あんのか?」

当然の反応だ。

リナも、同じように思っていた。あれは魔法じゃない。

少なくとも、自分の知っている“強さ”ではない。

火のように焼き切るわけでも、風のように切り裂くわけでもない。

何もしていないのと変わらない……はずなのに。

リナは、もう一度だけその男を見る。

男は、まだ紙を見ていた。落ち方を。揺れを。空気の動きを。

まるで、それが一番大事だと言うみたいに。

「……あの人」

小さく呟く。

自分でも理由は分からない。でも、違和感だけが残った。

強くない。すごくもない。意味も分からない。

それでも

「何を見てるの?」

その疑問だけが、消えなかった。

炎は嘘をつかない。努力すれば強くなる。それは、今も変わらない。

でもあの男は、違う。

強さとは別の場所で、何かを見ている。そのことだけが、妙に引っかかった。

リナは、無意識に手を握る。手の中で、小さな火が灯る。安定した炎。

いつも通りの感覚。それを見て、少しだけ安心する。

分かる強さ。制御できる力。それが、自分の武器だ。

そう思いながら、視線だけはもう一度だけあの男へ向いた。

あいつは、あの空気の中に、何を見ているのか。

その時はまだ、その答えが分からなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


本編では主人公視点が中心だったため、

今回は「他のキャラクターから見た主人公」を意識して書いています。


リナにとってはこの時点ではまだ

「よく分からないやつ」でしかありませんが、

この違和感が後の関係性に繋がっていきます。


次回は、同じ学園での別視点から、

主人公の“異質さ”がもう少しはっきり見えてくる回になる予定です。


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