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3話

病院を出たキリとリアム(ゲーム内でのリオン)は、リアムの父親が用意した都心から離れたアパートの一室で、新しい生活を始めた。父親は罪悪感と安堵から、生活のサポートを申し出たが、キリは「金はいらん。この子の父親は俺だ」と一蹴した。


しかし、現実はゴールド・スクラップのように、鉄と暴力で解決できるほど単純ではなかった。


現実は、あまりにもつまらなかった。


キリは、静寂に慣れるのに苦労した。夜中でも絶え間なく響いていた銃声やネオンのノイズがない。誰もが自分のスマホを見つめ、キリのように殺気立っている人間はいない。


「キリ、また窓の外を見ているの?」


リアムの声で、キリはハッとした。リアムはソファで古い図鑑を広げている。あんなに小さな体で、システムの核として世界を支えていた少女が、今、病的なまでに痩せてはいるが、穏やかな表情で成長を始めている。


「…ああ。この街は、ゴールドがゴミのようだ」


キリにとって、お金は命の価値を決める絶対的な基準だった。だが、現実の紙幣やデータは、触れても何も感じない。稼ぎ方も分からない。


殺し屋としてのスキルは、現実では何の役にも立たなかった。


「お父さん(キリ)、仕事を見つけなくちゃ」リアムが言った。「このままじゃ、生活費が尽きちゃう」


キリは、自分の無力さに苛立った。ゲームでは最強のキラーだった自分が、現実では無職の居候だ。


彼はアパートを飛び出した。そして、無意識のうちに、街の裏通り、廃墟のようなゲームセンターに足を踏み入れた。


そこで彼は、馴染みのある、狂ったネオンを見た。


ゲームセンターの奥。埃を被った筐体の列の中に、キリはかつての世界の残骸を見つけた。


古びたアーケードゲーム。タイトルは**『ゴールデン・スクラップ・アウトロー』。あのVRゲームの、簡略版のレトロアーケード**だった。


キリが呆然と画面を見つめていると、後ろから声をかけられた。


「…おい、兄さん。そのツラ、どっかで見た気がするな」


振り向くと、そこに立っていたのは、くたびれた作業服を着た婆さんだった。ゴールド・スクラップで情報屋をしていた、あの老婆にそっくりだ。


「あんたは…」


「やれやれ。まさか、あの**『ゴールド・キラー』**が、現実でこんな寂しい顔をしてるたあね」


婆さんは笑った。この婆さんも、**『ゴールデン・スクラップ・サバイバル』**の元プレイヤー、あるいは関係者だったのだ。


「あんたの娘さん…リアムかい?彼女の父親が、このゲームの残党を隠すために、このゲームセンターを作ったんだよ。仮想現実(VR)で繋がっていた仲間たちが、ここで、現実で再会できるようにね」


このゲームセンターは、元プレイヤーたちが、現実の生活に馴染めない心の病を抱えながら、交流する隠れ家だった。


「キリ。あんたの腕は、現実でも使える場所がある。誰も傷つけずに、金を稼げる場所がな」


婆さんはキリをアーケードの裏手にある倉庫に連れて行った。そこには、大量のVR機器と、新しいシステムの開発に必要なサーバーが並んでいた。


「あんたの反射神経と危機管理能力は、現実ではセキュリティとして最高の才能だ。それに、このゲームセンターの用心棒も必要だ。現実に戻れないバグった連中が、ここで騒動を起こすんでね」


キリは、久々に自分の存在意義を感じた。そして、何より、この場所には、微かに鉄の匂いと、裏社会の空気が残っていた。


キリは、ゲームセンター**『ゴールド・ラッシュ』の用心棒兼、セキュリティの専門家として働き始めた。彼の異常なまでの集中力と、一瞬で状況を把握する能力は、現実のトラブル対処で最高のスキル**となった。


そして、彼はリアムを連れてきた。


リアムは、最初は戸惑っていたが、ゲームセンターの賑やかさ、そこで働く元プレイヤーたちの人間的な優しさに触れ、少しずつ、本来の少女としての笑顔を見せるようになった。


ある日の閉店後。


リアムは、アーケードの筐体の一つを見つめていた。それは、かつて自分とキリがいたゴールド・スクラップの風景を映し出していた。


「お父さん…私たちは、またゲームの中に戻るの?」


リアムの不安そうな瞳に、キリは答えた。


「もう戻らねぇよ。あそこは、ただの箱庭だ」


キリは、リアムの小さな手を握り、静かに言った。


「俺は、『ゴールド・スクラップ』で、お前という金を見つけた。そして、現実で、それを守るキラーになる」


キリにとって、もはや金は、殺し合いの報酬ではない。リアムを育て、守り、現実を豊かに生きるための手段になった。


彼は、アトラス(リボルバー)の代わりに、工具とキーボードを扱うようになったが、その眼差しは、誰よりも鋭かった。


その晩、リアムはキリのために、生まれて初めて料理を作った。焦げ付いた、ひどい味のオムレツだった。


キリは、それを一口食べ、笑顔で言った。


「ああ、美味い。…この味は、ゴールド・スクラップでは、絶対に味わえなかったな」


リアムは泣き笑いの顔になり、キリに抱きついた。


二人の**『ゴールド・キラー』は、現実という新たなゲームを、ようやく、『親子の愛』**というルールで攻略し始めたのだった。


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