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第十六話 間に流れる河と妖精姫の宿命



 ヴァレリアンが一通り用事を済ませて宿屋の酒場に寄れば、エレナ・シルヴィアは極上の食事でだんまり。ライヴァンは難しい表情で冊子を見ていた。その冊子をのぞき込んでヴァレリアンは納得する。

「装備か……。クリスタリウム・ペイクの他にも行くのかい?」

「あら。ヴァレリアン。今、ライは装備の鬼だから何を言っても聞かないわよ」

 そう言って又不機嫌になると食事を始める。

「ライヴァン。エレナ・シルヴィアが非常に不機嫌だぞ」

「させておけ。俺はこっちで忙しいんだ。この後には採掘レッスンが待っているんだからな」

「採掘?」

 ヴァレリアンが不思議そうにする。

「私はまだ、クリスタリウム・ペイクに登頂できるほど回復していないらしい。そこで体力を戻すのに麓の鉱石を採掘してくれと頼まれた。その間に、今より強い装備を作ってもらうこととなっている。もちろん、クリスタリウム・ペイク用の装備もあるから登頂中にも制作するようだ。そこのお姫様はどういうわけか不機嫌なんだよ」

「どういうわけか、じゃないでしょう! 私が何度話しかけても上の空だったじゃないの。ご馳走さまっ。食事の代金は払っておいてっ。慰謝料よ!」


 慰謝料なんて言葉どこで覚えたんだ?

 

 ライヴァンはムッとしつつも優雅なエレナ・シルヴィアの姿を視線で追っていた。切ないその視線にヴァレリアンもライヴァンの秘めたる想いに同情したのだった。エレナ・シルヴィアが妖精の姫という事はライヴァンから内密に話があった。むやみやたらに親しくしてもムリだ、と言っていたが、それは納得できた。そしてそのジレンマから二人の仲に亀裂が入っていることも。クリスタリウム・ペイクのクレバスよりも深い亀裂が走っているように見えた。ただ、エレナ・シルヴィアは何が起きて何が悪いのかをまったく理解していない。よけい質が悪い。かと言って恋心がなさそうではない。どれが恋心かもしらないようだ。ライヴァンによると。純粋に妖精の姫として鎮守していたのだ。恋することなどなかった。だからエレナ・シルヴィアもどうしてこんなにいらだっているのか自分がわからなかった。ライヴァンは呼び名だけで機嫌を悪くするし、時々苦しそうな表情をする。そして不機嫌な顔。この三つの点から何を導けば良いのかもわからなかった。そんな風に思いながらフォージーロックの町をうろうろと寒い空の下エレナ・シルヴィアは歩いていた。そこで不意に老婆に声を掛けられた。

「もし。そこのお姫様。妖精の姫とみたが、あってるかの?」

 ぎくり、とエレナ・シルヴィアは喉元に手を当てた。


 どう答えればいいの? 人間の領域に入ってはいけないのに。


「つるし上げることはしないよ。ただ、お前さんは離してはならぬ手を離そうとしてるからね。忠告だよ。今繋いでいる手は離しちゃいけないよ。何があっても。死が二人を別けても」


 死! 


 エレナ・シルヴィアは急に胸が苦しくなった。ライが死んでしまったら……。そして、老婆を見る。

「そういうことなのね。私にもその時が来たのね」

 妖精の姫は恋をすると死んでしまう。それでも手を離してはならないときがある。あの人をライを守れるところまで守っていこう。


 妖精の姫としての自明の理が湧き上がり、ようやく、エレナ・シルヴィアははじめて「恋」という概念を理解したのだった。


 妖精の姫の宿命とライヴァンの種族の間に渡る河。どちらが深い溝なのかまだ、誰にもわからなかった。

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