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第十五話 恋の「こ」の字も気づいていないエレナ・シルヴィアと鍛冶屋の導き



「ライヴァン。お前さんはまだクリスタリウム・ペイクの登頂に成功するほど復調しておらん。どうだ。俺と採掘のスキルでも身につけないか?」

「採掘?」

「ああ。クリスタリウム・ペイクは登頂部は永久凍土に覆われているが、もとは火山。クリスタリウム・ペイクに登るまでに貴重な鉱石や特殊な石が眠っている。わしがクリスタリウム・ペイクの登頂を成功させるための最高な装備を作る代わりに行き途中で採掘して欲しい。この姫にも捧げる宝石も眠っている。一つ、贈り物でもしてはどうだ?」

 そう言ってニッと笑う。レイナルドは気づいている。ライヴァンの心に。告げ口をしそうにはないが断れば登頂も難しくなる。自分の気持ちと使命との間で揺れ動いて言葉が出ないライヴァンにエレナ・シルヴィアが不思議そうに見る。

「ライ? どうしたの? 鉱石を採る時間はあるでしょう? 途中なんだから」

 エレナ・シルヴィアの声ではっと我に返るライヴァンである。

「ああ。体力作りに採掘のスキルを上げておくのはちょうど良い。レイナルドもそれぐらいなら体調を崩すとは思ってないという事だから、晴れて私は療養から開放されるんだ」

「それ、私への嫌味?」

 エレナ・シルヴィアが不機嫌そうな顔をする。

 

 しまった。シルヴィは気難しい姫だった。

 

 思うも後の祭り。すっかりエレナ・シルヴィアは機嫌損ねてしまった。

「まぁ。姫さんや。男はずっと家の中にいても飽き足らん場合がある。許してやってくれ。多少の運動も必要だ。姫さんは装備をヴァレリアンと決めてくれ。この大男のサイズも姫さんなら知ってるだろう?」

「ええ。まぁ……」

 毒気を抜かれたようになっているエレナ・シルヴィアが可愛らしい。そう思ったライヴァンはその思考を頭の中から追い出す。

 

 いつから色ボケし始めたんだ? 私には王国を救う使命がある。

 

 強く思ってもヴァレリアンと二人きりとは、とも思う。

「大丈夫だ。俺の弟子達が何人もいるから浮気なんてする暇はない」

「う……浮気? それ。なんですの?」

 純粋培養のエレナ・シルヴィの辞書には「浮気」などないのだ。

「こりゃ、困った。苦労するねぇ。にいさんも」

「それについては今はまだ……」

「そうだな。うかつに解決する問題では無いな。それは経験している」

「レイナルドも、か?」

 思わず身を乗り出すライヴァンである。

「結果。この道に生きて独身の中年だ」

 そうか、と言ってまた思考の泉に落ちかけるのをエレナ・シルヴィアが引き留める。

「せめて装備の注意点を聞き出すまではこっちにいて」

「注意点?」

 エレナ・シルヴィアならライヴァンの能力は知ってると思ったのだが。ライヴァンがきょとんとする。

「まぁ。可愛らしい」

 くすくす笑いかけて慌てて止める。今度はライヴァンが不機嫌王子だ。

「ごめんなさい。あなたが要求する装備の能力を聞かないまま作れないわ。どういう装備がいいの?」

「ああ。それならこのオーダー冊子に書くといい。これを見て弟子達や俺が作る」

 そう言って伝票帳のようなものを取り出す。それをここで書くのか。筆記用具はあるが……。ライヴァンが戸惑っているとエレナ・シルヴィアが手を引く。

「宿屋の美味しい食事を食べてから書けばいいわ。ヴァレリアンはもう食べたそうだから、私と二人きりだけどいいかしら?」

「もちろん!」

 即答して固まる。

 

 いまのでバレたか? 

 

 レイナルドは小さくくつくつ笑っている。だが、純粋、恐るべし。エレナ・シルヴィアはまったく気づかなかった。恋の駆け引きをしようにもしようがないのがエレナ・シルヴィアである。

 

 ほんとにこの姫は……。

 

 呆れるやら感嘆するやら複雑である。

「わかった。宿屋に行って食事を食べてから書くよ。レイナルド。この冊子を預かって良いか?」

「ああ。じっくり見て書いてくれ。他の装備の箇所も見ても良い。それぞれ個性的な装備の注文ばかりだ。姫さんのアミュレットも生かせたいから姫さんのも少し書いてやってくれ。サイズは姫さんが書けばいい。スリーサイズを聞く男はうさんくさくなるからな」

 エレナ・シルヴィアはその言葉にも無反応だ。

 

 壊滅的だ。商売の取引ができてもこのエレナ・シルヴィアは恋の駆け引きができない。なんとも難解な人物に恋した物だ。いや、妖精か。

 

 はぁ、と小さくため息をつくとエレナ・シルヴィアが見る。

「ライ?」

 いつの間にかライヴァンからライに変わっている。どういう風の引き回しか? いや。本人は気づいていない。それぐらい、朴念仁なのだ。自分もついこの間までそうだったのだから文句も言えない。エレナ・シルヴィアの腕を取って歩き出す。

「さぁ。宿屋に行こう。腹が減って倒れそうだ」

「私もよ。贅沢な食事は滅多ににないもの」

 どういうわけか機嫌が良くなったエレナ・シルヴィアと共に宿屋に向かう。その後ろでレイナルドが恋の神に二人の恋に加護を与えたまえ、と祈ってくれていたのは知るよしも無かった。

 

 恋の駆け引きができない片恋同士。いや、エレナ・シルヴィアには何があるかわからない。恋の独り相撲は今日も健在だった。

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