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第十三話 新しき仲間。登山家ヴァレリアン。


 ヘイルストーンをでてようやくフォージロックにたどり着いた。これだけで何日かかったろうか。これを繰り返すのか?

 ライヴァンはどっと疲れる。その脇をエレナ・シルヴィアがすっと通っていく。

「シルヴィ! どこへ行くんだ?」

「って、メリウスがレイナルドという鍛冶職人に会えと言ってたじゃないの」

「このだだっぴろい鍛冶屋の工房が並んでいる広場を一周するのかい?」

 それだけでどっと疲れる。山に登る前から何故か疲れが取れなかった。

「ライヴァン?」

 エレナ・シルヴィアが不意に額に手を当てる。どきり、とする。

「まぁ。すごい熱! 先にお宿に行きましょう! こんな寒いところではもっとひどくなるわ」

 そう言って何か小声で呟く。

「ヒートブレイズ、か?」

「ええ。病人は余計な事を考えないで。さぁ。行くわよ。食事のうんちくなら後で聞きます。まずばしっかりとしたお宿で休んでもらわないと」

「大丈夫ですか?」

 そこへ登山の装備をした青年が声を掛けてきた。

「一人であそこに行くのかしら?」

 あそこ、とはクリスタリウム・ペイク前提の話だ。

「ええ。連れもいませんし。それより、そちらの方ご病気では?」

 心配そうな目を青年は向ける。

「それでは、こちらには登山で怪我した方達の治癒屋というものがあります。そこへご案内しましょう。体調を崩される方も今年は多いらしいですから」

 丁寧な話し方の冒険者がライヴァンの肩に手を入れて半かつぎにする。エレナ・シルヴィアは二人の馬の手綱を器用に引っ張っている。ティアはエレナ・シルヴィアの懐から顔だけ出して心配そうにライヴァンを見ている。

「ティア。大丈夫だ。シルヴィの所にいる方がいい」

 そう言うとまたチッと鳴いて懐に潜り込んだ。青年はあまり小さな音は気にしていないらしい。気づかなかった。もっとも、ここでティアを不審に思われても困る。

 気づけばライヴァンは暖かな部屋でベッドに寝かせられていた。エレナ・シルヴィアが心配そうに見つめている。その視線が切ない。ライヴァンは何かを言おうとして何を言えばいいのかわからなかった。

 その内扉が開いて中年の女性が入ってきた。

「そうねぇ。風邪ね。長旅の疲れもあるようですね。二、三日ここで療養してもらいますよ。奥さん。こちらで手続きを」

 奥さん、と言われてエレナ・シルヴィアはただでさえ大きい瞳をまた大きくさせて驚く。それが可愛らしくてまた面白い。くつくつ笑っていると拳骨が振ってきてそれからエレナ・シルヴィアの周りの空気が動いた。中年女性に着いていったのだ。代わりにあの青年がやって来た。

「風邪でよかったですね。奥さん、ではないんですか?」

「旅の同派者だが、恋人でも妻でもない。事情があって一緒に旅をしている。君の名は?」

「ヴァレリアンです。登山家としてこの村に来ました。今年のクリスタリウム・ペイクは極寒と聞いていますが、挑戦しようと。色んな人に止められたんですけどね……。実はこのクリスタリウム・ペイクには直前まで何度も行ってるんです」

 罰が悪そうな表情をして言う。それなら、とライヴァンが言う。

「我々と一緒に登らないか? 経験者がいるとありがたい。二人では装備のそろえ方も不慣れでどうしたものかと考えていたんだ。君から助言してもらえるとありがたい」

 最初はびっくりとした体で聞いていたヴァレリアンだったが、しばらくすると軽く肯く。

「お互いにその方が良さそうですね。あなたは屈強な戦士か剣士でしょうし。あの女性は魔法を使えるようですし。偶然、あの方があなたに魔法を掛けているところを見たのです。で、何気なくやりとりが耳に入ってきてお二人のところに入ったわけです。あのまま普通の宿ではなかなか風邪は治りませんから」

「そうか。ありがたい。それではエレナ・シルヴィアと宿屋で待っててもらおうか」

 そう言うと嫌よ、という声が降ってきた。エレナ・シルヴィアが戸口に立っていた。

「看病ぐらいできるわ。ヴァレリアンというの? よろしくね。ついでに食事の美味しい宿を予約してあなただけでも泊まって待っていてくれないかしら? 横暴なこの人は食事にうるさいのよ」

「それなら、大丈夫です。行きつけの美味しい宿屋を知ってますから。それじゃ、空き部屋があるか調べてきます」

 じゃ、と爽やかな笑顔を残してヴァレリアンが部屋を出ていく。

「シルヴィ。ここでどうするんだ? 寝ることもできないのに」

「看病の一つや二つできます! あなたはとっとと寝れば良いんです!」

 布団をがばりとかぶせられる。暖かい部屋のためティアも出てきてライヴァンの枕元に鎮座する。

「ティア。見張り人かい?」

「可愛い見張り人だ事。クルミを一個あげるわ」

 チチッ、と嬉しそうに鳴いてティアはクルミをほおばり始める。

「ティアはライの子ね。本当に食いしん坊なんだから」

 喉元を撫でるエレナ・シルヴィアである。

 

 ようやくここに来た。後は体調と装備をそろえ挑むだけだ。どんな試練が待ってるのかそれはまだ二人にもわからなかった。

 ヴァレリアン。新しい仲間が入った事はありがたいが、どういうわけか複雑な心境のライヴァンだった。

 いや、どういうわけかもどうも。本人が自覚していないだけだ。

 本来はただの嫉妬だった。恋の病は本当になんとも複雑な物だった。

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