第十話 輝く朝日の中の二人
なかなかいいシーンの回ですが、朴念仁同士には無理なようで。舞台はかんぜなのに難しい恋。
王道ですね。型にはまるほどの王道。ずずいっとどうぞ。
宿屋の酒場で食事をしていると周りの冒険者達が忌憚なく情報交換をしていることにエレナ・シルヴィアは気づいた。ライヴァンは素知らぬ顔で食べている。
「情報交換しなくて良いの?」
「放っておけば、勝手に必要な情報は耳に入ってくる。他の冒険者達にわざわざ聞く必要はないし、逆に踏み込むと警戒される。中にはあくどいことを生業としている奴らもいるしね」
「そうなの」
ざわざわした店内の中エレナ・シルヴィアは気を取り直して食べていると、聞き慣れた言葉が耳に入ってきた。目的地、クリスタリウム・ペイクの事だ。どうも、今年は相当の寒さでなかなか試練に到達する冒険者達はいないらしい。
そして、メリウスが言っていたレイナルド、という名前も聞こえてきた。レイナルドの腕は非常に高く、働いている鍛冶屋の工房を「炎冶師イグニス」というらしい。
「ふむ、そうか」
ぽつん、とライヴァンは言葉を落とした。同じ事を耳にしていたようだ。ライヴァンの変わった旅の仕方に戸惑うが、旅慣れているのはライヴァンだ。ここは大人しくこの美味しい食事を楽しもうとエレナ・シルヴィアはまた食事に集中したのだった。
それぞれの部屋に戻るとき、エレナ・シルヴィアはふと思い立ってライヴァンに言う。
「この宿屋に連れてきてくれてありがとう。本当にあの夕食は美味しかったわ」
「朝食も美味しいから、また楽しみにすればいい。明日は、何か炎のエレメントが入ったものを探しに行こう。それじゃぁ、お休み」
「おやすみなさい」
エレナ・シルヴィアはベッドに入ると今日のめまぐるしい一日を思い出していた。メリウスとアフタヌーンティーをしていたのはついさっきまでの気がする。それなのに、もう森を出て違う街で寝ている。森の生命力が衰えなければこんな所には来なかった。旅の楽しみも何もかも知らなかった。自分は森の中で何も知らないまま過ごしていたことに気づく。ただの世間知らずで、森さえよければ、それでよかった。旅に出る前の自分が恥ずかしい。ライヴァンには感謝しないと……。
つらつらと考えていると疲れがどっと押し寄せる。エレナ・シルヴィアは一気に眠りに落ちていった。
朝、鳥のさえずりでエレナ・シルヴィアは目を覚ました。ふと、湖が見たくなった。着替えて出て行こうとすると隣の部屋のラヴァンとばったり出会う。
「あら。もう起きていたの」
「シルヴィこそ。早起きだね」
「朝の湖を見たくて……」
「私は宿屋の掲示板を見に行くところだったが、ふむ……。朝日に輝く湖は見てない。一緒に行こう」
そう言って手を差し出す。手を繋いで行くのか、とびっくりしてるとライヴァンが手を引っ込める。
「どうして手なんて差し出したんだろう。普通に行けばいいのになぁ。な。ティア」
半ば一人言のように言うライヴァンがティアに声をかけるとティアが出てきた。
「ティア。おはよう。湖に行ってもクルミはだめよ」
ティアは不機嫌そうにチッと鳴く。
「さぁ。ライヴァン。寝ぼけていたんじゃ無いの。手を握ろうが握らなくても問題ないわ。細かい事も気にするのね。行きましょ」
エレナ・シルヴィアは普通の男女が意味もなく手を繋ぐことは無いと知らないため、ライヴァンの手を取って歩きだす。女性にリードされてライヴァンは焦る。
「シルヴィ。いや、なんでもない」
不意に横顔を見てこの手の温かさが妙に嬉しかった。子供でもないのに仲睦まじく湖に行く。
「やっぱり。シルバーミスト湖が朝日に輝くのは素晴らしい光景だったんだわ。ねぇ。ライヴァン。どうしたの?」
「いや、手が……」
「手がどうしたの?」
「いや、いいよ。しばらくこうしていよう。この景色に似合うのだから」
やれやれ、と言った具合にティアが見ている。ライヴァンにはある程度察しが付いたが、基本的な事には気づいていない。
お互いが純粋すぎて朴念仁同士の恋は難しい道のりなのだ。どちらが先に気づくかは誰にもわからない。よほど事が起きない限り永遠に気づかないかもしれない。そして人と妖精の間に流れる河がよけい、二人が恋に落ちていると思わせなかった。誰の目にも恋人同士に見えるのに。
恋とは如何に難しい物か。
森の賢者、メリウスのつぶやきが聞こえてきそうな朝だった。
ここまでよんでいただきありがとうございました。またの更新をお待ち下さい。




