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その不自然で意味深な言葉は、声がかすれていて、よく聞き取れなかった。

デスナイトは、そう言い残して倒れると、その漆黒の鎧ごと、上下に綺麗に両断されていた。

そして、その体は光の粒子となって、跡形もなく消滅した。

時空を断ち切る一撃は、デスナイトだけではなく、戦場にいた全ての魔物の軍勢の指揮系統をも断ち切っていた。

王を失った魔物たちは、統制を失って混乱し、やがて我先にと森の奥へと逃げ出していった。

後に残されたのは、夥しい数の魔物の死体と、破壊された村、そして、呆然と立ち尽くす村人たちだけだった。

勝ったのだ。

俺たちは、あの絶望的な戦いに勝利したのだ。

歓声が、村のあちこちから上がり始めた。

人々は抱き合い、涙を流して勝利を喜んだ。

だが、俺は、その輪に加わることなく、教会へと走っていた。

胸騒ぎが、止まらなかった。

教会の扉を開ける。

中は、避難していた女子供で溢れていたが、彼らは皆、中央で倒れている一人の少女を心配そうに囲んでいた。

エリアナだった。

彼女は、まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていたが、その体からは、先程まで感じられた温かい光の力が、完全に消え失せていた。

「エリアナ!!!」

俺は彼女の体を抱き起こした。

息はしている。

だが、どんなに呼びかけても、彼女が目を開けることはなかった。

彼女は、歌に自分の生命力そのものを注ぎ込んだのだ。

村を俺を守るために。

俺は、彼女の命を救うことはできた。

歴史を変えることにも、成功した。

だが、それは、決して完全な勝利ではなかった。

運命は、エリアナの『死』という結末を『深い眠り』という、別の形に変えて俺に突きつけてきたのだ。

俺は、眠り続けるエリアナを抱きしめ、声にならない叫びを上げた。

俺たちの本当の戦いは、まだ、始まったばかりだった。

第七章:勝利の代償と一条の光

戦いの喧騒が嘘のように引いていくと、後に残されたのは血と鉄の匂い、そして痛ましいほどの静寂だった。

村人たちの歓声は、勝利を実感するにつれて徐々に勢いを失い、やがて目の前の惨状を認識するにつれて、重い沈黙へと変わっていった。

あちこちで家が燃え、畑は踏み荒らされ、俺が築いた防衛柵は無残に砕け散っている。

そして何よりも、倒れた仲間たちの姿が、勝利という言葉の空々しさを際立たせていた。

魔物の死骸の間に見慣れた村の男たちが、二度と動かぬ体で横たわっている。

女たちの嗚咽が、夕暮れの空に悲しく響き渡った。

俺は、眠り続けるエリアナを抱きしめたまま、その光景に立ち尽くしていた。

勝ったはずだった。

運命を変え、彼女の命を守り抜いたはずだった。

だが、この結果は何だ。

多くの犠牲を払い、そして腕の中の彼女は目を覚まさない。

まるで、悪魔との取引で、魂の代わりに抜け殻を渡されたような虚しい感覚だけが胸に広がっていた。

俺が救ったのは、彼女の命ではない。

ただ、その肉体が呼吸を続けるという、現象だけだったのではないか。

「ラングルド…」「ラングルドさん」

不意に弱々しい声がかけられた。

見ると、肩にひどい傷を負ったバルガスとカイが、若者たちに支えられながらこちらへ歩いてくるところだった。

彼の顔は土気色だったが、その目には確かな意志の光が宿っていた。

「…エリアナちゃんは?」「ラングルさん……」

「…眠っている。

息は、している。

だが……」

俺の言葉尻は、震えていた。

バルガスは俺の腕の中のエリアナを見ると、全てを察したように静かに頷いた。

「そうか…」

彼は、俺のせいだとは一言も言わなかった。

それどころか、俺の肩に怪我をしていない方の手を力なく置いた。

「お前さんがいなければ、俺たちは今頃、全員あの世行きだった。

村も、エリアナちゃんも、残っちゃいなかっただろう。

お前さんは、俺たちの英雄だ。

自分を責めるな」

その言葉は、温かかった。

だが、今の俺の心には、その温かささえもが棘のように突き刺さった。

英雄? 俺が? エリアナ一人、満足に救えなかった俺が?俺は何も答えられなかった。

ただ、エリアナの体を強く抱きしめることしかできなかった。

その夜から、村は一丸となって復興作業に取り掛かった。

男たちは倒壊した家屋を片付け、女たちは負傷者の手当てに奔走した。

誰もが悲しみを胸に抱えながらも、生き残った者として、前を向こうと必死だった。

エリアナは、彼女の家のベッドに寝かされた。

村の女たちが代わる代わる付き添い、体を拭き、髪を梳かしてくれた。

彼女の顔は安らかで、まるで幸せな夢でも見ているかのようだったが、その瞼が開かれることは、一日、また一日と過ぎても、決してなかった。

村人たちは、彼女を『聖女様』と呼ぶようになっていた。

あの戦場で彼女が起こした奇跡を誰もが目の当たりにしていたからだ。

彼女が歌によって村を救ったのだと、誰もが信じていた。

その信仰が、絶望の中にあった村人たちの心を繋ぎとめる新たな支えとなっていた。

俺だけが、その輪の外にいた。

復興作業にも身が入らず、ただエリアナのベッドの傍に座り込み、彼女の顔を眺め続ける毎日だった。

俺は、自分を許すことができなかった。

俺の力が足りなかったからだ。

俺がもっと強ければ、彼女をこんな目に遭わせずに済んだのではないか。

『見えざる剣』などという、付け焼き刃の奇跡に頼ったから、その代償を彼女が払うことになったのではないか。

後悔と自責の念が、黒い蟲のように俺の心を蝕んでいく。

俺は再び、灰色の世界へと逆戻りしていた。

そんな俺を見かねてか、数日経ったある日、村で一番の年長者である薬草師の老婆が訪ねてきた。

彼女はエリアナの手を取り、目を閉じてしばしその様子をうかがっていたが、やがてゆっくりと目を開けると、静かに首を横に振った。

「…この子の魂は、まだ目覚める覚悟ができていない」

「…どういう意味だ」

「この子の魂はなあの戦いで、村人全員を守るために自らの光を分け与えてしまったんじゃ。

体はここにある。

そして、魂の光も、数日前に比べると、確かに体に戻ってきた。

じゃが、長い旅路で疲れ果てておる。

あとは、この子が自らの意志で、目覚めようとするのを待つしかない。

そのためには、安心できる力強いきっかけが必要じゃろう」

「……本当だな? 本当に光が戻りつつあるんだな?」

「うむ。

あとは、本人の生きる意思だけだ。

彼女の心の奥には、深い闇があるからな」

その言葉は、俺の灰色の世界に差し込んだ、一条の光だった。

まだ、終わっていない。

エリアナは、戦っている。

俺は、彼女の手を握り、語り聞かせた。

俺たちの旅の出来事を。

俺の想いを。

言葉は、きっと彼女の魂に届いていると信じて。

そして、俺は誓いを新たにした。

俺の戦いは、まだ終わっていない。

エリアナがいつ目覚めてもいいように彼女が安心して暮らせる世界を俺が作らなければならない。

『影』の脅威が完全になくならない限り、本当の平和は訪れないのだ。

俺の目的は、もはや単に『エリアナを救う』ことだけではなかった。

『エリアナが幸せに生きられる世界を守り、創造すること』。

それこそが、俺がこの二度目の人生で、成し遂げるべき、本当の使命なのだと。

俺は、眠り続けるエリアナの手を固く、固く握りしめた。

その温もりを感じながら、俺は静かに次なる戦いのための覚悟を決めていた。

夜が明け、新しい一日が始まる。

それは、絶望の終わりではなく、希望へと続く、長い戦いの始まりを告げる朝だった。


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