第二話「月夜の舟遊び」3
第2話「月夜の舟遊び」は3分割で更新していきます。これは3つ目です。
月の光が池の水面に反射し、ゆらゆらと淡い光を揺らしている。
小さな舟がその上を滑るように進み、舟遊びを終えた凌偉と春燕は岸へと戻っていた。
舟が、そっと岸につく。
まず凌偉が降り、舟を安定させる。
続いて春燕も立ち上がるが、慣れない足場にふわりと体が揺れた。
その時だった。
舟の上で丸くなって眠っていた豆豆が、突然むくりと起き上がると、
まるで弾かれたように飛び跳ね、春燕の横をすり抜けていった。
「きゃ……!」
春燕の体が傾ぐ。
掴む場所はない。
そのまま落ちてしまう――
そう思った瞬間、
「危ない!」
凌偉が反射的に手を伸ばし、春燕の腕を引き寄せた。
勢いのまま、春燕は凌偉の胸元へ。
細い身体が、しっかりと抱き止められる形で収まった。
右手は春燕の頭に。
左手は背中に。
自然に、迷いなく、包み込むように。
ただ抱きしめている、というその事実に、
凌偉自身が一番驚いていた。
小さく、華奢で。柔らかい。
春燕の体温が、衣の上からでもはっきり伝わる。
(……!!)
不意打ちの出来事に、胸の奥で静かに何かが跳ねた。
凌偉の鼓動が一瞬止まり、次の瞬間には痛いほど脈打ちだす。
「ありがとうございます。凌偉様」
春燕は意識していないようで、
それともただ自然に受け止めているのか。
そっと身体を離し、いつものように微笑んだ。
「あ……ああ……」
返事は遅れて、ひどくぎこちなくこぼれる。
息が浅くなる。胸が熱い。
淡い想いを自覚したばかりで、これでは……。
これは……これから先、身が持つのだろうか……。
「もう遅い。部屋に帰るか」
動きに不自然な固さが混じる。
凌偉本人は隠しているつもりでも、まるで隠せていない。
「そうですね。今日はとても楽しかったです」
春燕は、夜の空気を吸い込むように、ふわりと微笑んだ。
そして凌偉の少し後ろを、柔らかく歩く。
「ああ……春燕が……楽しかったなら何よりだ」
声はどうしてもぎこちない。
二人の背を、少し離れた場所から愁飛が見ていた。
腕を組みながら、口元に愉快そうな笑みを浮かべる。
「ははは。これは時間がかかりそうだな〜」
その声は夜風に混じり、
静かな庭へと溶けていった。
※作者より
「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、
少しずつ近づいていく時間を、
見守っていただけたら嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




