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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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間の話 1「宴の準備」

 その日、春燕しゅんえんは本邸の一角にある凌偉りょういの叔父、恭信きょうしんと叔母、きょうの部屋へ招かれていた。

中庭は初夏を迎え、涼やかな風が新緑を揺らしている。

湯の立つ茶器の香りが、やわらかく部屋に満ちていた。


「初夏の宴ですか?」

春燕が茶杯を両手で包みながら問いかける。


「そうだ。昼間は馴染みの取引先や得意先の客人相手の宴だ。楼と庭園内を使ってもてなす。」

凌偉りょういが静かに茶を口に運びながら応じた。

「夜は琳家の家族と使用人達の…慰労会みないな宴だな。」


「まあ…!」

春燕は思わず声を弾ませた。

宴という言葉は、彼女にとって別世界のものだった。皇族や大貴族がやるもの——そう思っていたからだ。


「以前やった時は、兄上と芙蓉ふよう殿が庭の池に

 舟を浮かべて月見をしてたな。」

恭信が穏やかに微笑む。


「月明かりに照らされた芙蓉お姉様の美しかったこと!!

 まるで月から来た天女のようでしたよ!」

嬌は両手を胸の前で組み、うっとりと目を細めた。


 その光景を思い出しながら、三人は自然と笑みを交わしていた。

 ——昔は、こんな風に凌偉と話すことなどできなかった。

恭信と嬌は、胸の奥にじんとあたたかいものを感じていた。


 凌偉は茶器のふちに視線を落とし、思案する。

(もう初夏だし時間もないからな……今回の宴はやめて、秋に規模を小さくして催すかー……)


そう言いかけた、そのとき。


「素敵ですね。宴なんて…夢見たい。」

春燕は、目を細め、ほんの少し頬を染めながら言った。

その表情は、憧れに胸を灯した少女そのものだった。

見ているだけで、胸がくすぐられるような笑顔だった。


その瞬間——。


凌偉と恭信と嬌は、音を立てて同時に立ち上がった。


「番頭達を呼べ!」

「宴の準備だ!」

「急ぎますよ!」


三人は顔を見合わせ、言葉より先に身体が動き慌ただしく外へ出て行った。


「急にどうされたのかしら…?」

春燕は、一人残され、ぽかんと目を瞬かせていた。

「水月鏡花」の更新は【週3日、月・水・金:21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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