第一話「夏の宴」4
第一話「夏の宴」は5分割で更新していきます。これは4つ目です。
春燕はすぐに、取引相手や客たちに囲まれた。
誰もが競うように挨拶をしようと前に出る。
「春燕様!お初にお目にかかります!許廉之と申します!」
「許廉之様…。綿のお取引をされている方ですね。」
春燕はやわらかく微笑んで応える。
「は、はい! よくご存知で……!」
廉之は驚いたように目を瞬かせた。
「凌偉様の帳簿を見せていただきましたので。」
春燕がふわりと笑う。
その笑顔に、廉之もつられて笑みをこぼした。
取引規模は琳家から見れば小さなもの。
それでも名前を覚えてもらい、帳簿にまで目を通しているとは…。
廉之は思わず背筋を伸ばした。
「あの…取引のことでお聞きしたいことがあるのですが……。」
春燕が興味深そうに尋ねる。
「はっ、はい! その綿はですね——」
話が始まると、周囲の商人たちも次第に
引き寄せられていく。
商いの話になれば誰もが耳を傾けずにはいられない。
春燕は相手の話を瞬時に理解し、的確に返す。
その頭の回転と人懐こい笑顔に、次第に場の
空気が和らぎ、笑い声が広がっていった。
「いやぁ素晴らしい! ここまで我々と商いの
話ができるとは!!」
「凌偉様! 素晴らしい方を見つけられましたな!」
称賛の声が次々と上がる中、凌偉は春燕を
見つめながら、静かに微笑んだ。
「いえ……。」
少しだけ照れくさそうに、けれど確信をもって
言葉を返す。
「オレのほうが、見つけてもらったのです。」
その一言に、場の空気が一瞬だけ止まる。
春燕が思わず息を呑む。
——その表情に春燕への愛おしさが宿る。
誰の目にも彼女が凌偉の“心の光”であることが伝わった。
春燕を蹴落とそうとしていた者たちは、その瞬間、悟った。
入る隙などどこにもない。
凌偉の瞳には、春燕しか映っていない、と。
そして、心を取り戻した当主は、以前よりも
ずっと強く、自信に満ち溢れ、堂々としていた。
——琳家は、これからますます栄えるだろう。
誰もがそう、確信していた。
「水月鏡花」の更新は【週3日、月・水・金:21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ
近づいていく時間を、
皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。
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