表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/112

第一話「夏の宴」3

第一話「夏の宴」は5分割で更新していきます。これは3つ目です。

 承光楼しょうこうろう——商人や豪族が集うこの楼では、

朝からざわめきが絶えなかった。


琳家の当主が、ようやく心を取り戻したという噂が

広まっていたからだ。

「今まで取り入る隙なんてなかったが、これでようやく…」

「若い当主だ。油断すれば一気にこちらのものにできるかもしれん。」

「いや、いっそ……あの婚約者を蹴落とせれば——。」

酒を注ぐ手を止めて、誰もが囁き合う。


狙いは一つ。


——春燕しゅんえんという娘を引きずり下ろし、自分の娘や

親族を琳家に嫁がせること。

そんな思惑が渦を巻く中、ざわりと声が上がった。

人々の視線が、一斉に入口へと向かう。


そこに現れたのは、凌偉りょういと——その手を引かれた一人の少女。


背はまだ小さい。婚約ができる年齢なら十五ほどか。

あどけなさの残る顔立ちだが、その瞳には

確かな強さが宿っていた。


「おい…あれは……!」

息をのむ声がいくつも重なる。

髪にはきょうの牡丹と蓮子はすかんざし

腰には恭信きょうしん佩玉はいぎょく

それらは琳家の二人の重鎮の絶対的な証——


そして今、その二つを同時に身につけているのは、

凌偉に手を引かれた少女、春燕だった。

承光楼の空気が一瞬で張り詰める。

彼女はゆっくりと歩を進め、静かな気品を纏っていた。


誰もが悟る。

——これは牽制けんせいだ。

琳家がこの婚約者を、公に認めた証。


「牽制が凄いな〜!」

後ろを歩く愁飛しゅうひが、にこにこと笑う。

「牽制?」隣を歩く雪麗せつれいが首を傾げる。

「はは。この街で、恭信様と嬌様の両方に

 認められてる娘なんていないよ。見て、みんなビビってる。」

愁飛は軽口を叩きながらも、目は周囲を警戒していた。


「そんなに凄いことなのですか?」

雪麗が少し戸惑うように尋ねる。

「そりゃそうさ。あのかんざし佩玉はいぎょくは、嬌様と恭信様そのもの。

 つまり春燕は、ただの婚約者じゃない。琳家そのものだ。

 春燕に手を出すってことは——琳家を敵に

 回すのと同じ。この街で商いはもうできないね。」

「そうなのですね……。」

雪麗は息を呑んだ。


——お嬢様はあの日、凌偉様の心を救った。

お嬢様にとっては何気ないことでも、琳家に

とっては奇跡だったのだ。

その想いを噛みしめながら、雪麗は前を歩く

春燕を誇らしげに見つめた。


朝の光が差し込み、春燕の衣が淡く輝く。

なんて美しいのだろう…。

その姿は雪麗にとっても希望そのものだった。


「雪麗は大丈夫?」

愁飛が小声で尋ねる。

「君も、けっこう見られてるけど。」

「……大丈夫です。」

雪麗はそっと答えた。

自分にも視線が集まっているのはわかる。


けれど——私は春燕様の侍女。

お嬢様の顔に泥を塗るわけにはいかない。

堂々としていなくては。

そんな雪麗の前を、愁飛がさりげなく、

かばうように歩いていた。

その仕草に、雪麗の胸の奥が少しだけ温かくなった。

「水月鏡花」の更新は【週3日、月・水・金:21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ