第十四話「雨」3
第十四話「雨」は分割で更新していきます。これは3つ目です。
凌偉を追いかけることはできなかった。
足が重く、胸の奥がずっと痛かった。
廊下を歩くたびに、濡れた衣の裾が足にまとわりつき、冷たい雨の雫が髪から落ちてくる。
――どうして、あんなふうに……。
自分の言葉で彼をさらに傷つけてしまったのだろうか。
考えるたび、心が軋んだ。
曲がり角に差しかかったとき、勢いよく人影が現れた。
「まあ!春燕!どうしたの、そんなにずぶ濡れで!」
嬌だった。
驚いたように目を見開き、春燕の肩に手を伸ばす。
「も、申し訳ありません……!」声と身体が震える。
嬌の優しい叱責に、先ほどの凌偉の叫びが重なり、
涙があふれそうになる。嬌はすぐに何かを察したように
春燕の手を取り、自室へと導いた。
「さあ、こっちにいらっしゃい。」
部屋の中は温かな香木の匂いが満ちていた。
嬌は春燕の濡れた衣を脱がせ、自分の上着を
そっと肩にかける。
冷えた背を撫でながら、濡れた髪を布で優しく拭いた。
その手つきには、母のような温もりがあった。
「凌偉と……何かあったのですか?」
静かな声に、春燕の肩がびくりと震える。
慌てて嬌の前に膝をつき、深く頭を下げた。
「申し訳ありません……!叔母様に“声を
かけてはいけない”と言われていたのに、私……
言いつけを守れませんでした……!」言葉が震える。
「私のせいで、凌偉様を怒らせてしまいました。
申し訳ありません。どんな罰でもお受けします……!」
しばらく、嬌は何も言わなかった。
ただ春燕の髪に触れたまま、静かに問う。
「――凌偉が、怒った?」
春燕は顔を上げる。
「そう…。」嬌の表情を見て、思わず息をのんだ。
そこに怒りはなく、柔らかい微笑が浮かんでいた。
まるで何かを確信したような、深い安堵の色を
帯びた笑みだった。
「春燕。貴方は――凌偉を助けたい?救いたいと思う?」
嬌の瞳がまっすぐに春燕を射抜く。
春燕は一瞬、言葉を失った。
助けたい、救いたい……。
けれど、それだけではない。
胸の奥で確かな思いが形を取る。
ゆっくりと目を開け、嬌を見つめて言った。
「私は……凌偉様の心が…知りたいです。」
嬌の瞳が柔らかく揺れる。そして、ゆっくりと微笑んだ。
痛みも、真実も、すべて包み込むような優しい
微笑みだった。
「春燕。貴方になら、話しましょう。」
嬌は手をそっと春燕の頬に添えた。
「――凌偉の過去のことを。」
次回の更新は【明日21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ
近づいていく時間を、
皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。
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