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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十四話「雨」2

第十四話「雨」は6分割で更新していきます。これは2つ目です。

 長い渡り廊下。雨に濡れた中庭。蓮の葉の上に落ちる雫。

その奥で、見覚えのある後ろ姿が見えた。

「……凌偉様?」

傘も差さず、中庭を歩く凌偉。

その肩は雨に濡れていた。

体調が悪いはずなのに、なぜ外に――。

“見かけても、どうか声をかけないで”

嬌の言葉が頭をよぎる。

 

けれど春燕は、それを振り切って走り出した。

「凌偉様!」駆け寄り、腕をつかむ。

「濡れてしまいます。中へ戻りましょう!」

「構わない。一人にしてくれ。」

振り返った凌偉の瞳は、昨日と同じ――いや、

それ以上に沈んでいて、氷のように冷たい。

春燕の胸が痛む。それは、病に伏した母が見せた、

あの“心のない目”だった。


――もう、あんな思いは…。

「嫌です!」春燕は凌偉の腕を強く引いた。

「風邪を引いたらどうするんですか!」

その勢いに、凌偉の目が一瞬だけ揺れる。


春燕はその隙に、彼を近くのてい(東屋)の中へと

引きずり込んだ。

「凌偉様、これを。」

差し出したきん(ハンカチ)を、凌偉は手で払いのけた。

「いい。そんなに濡れてない。」

深いため息とともに、椅子に腰を下ろし、顔を覆う。

「……役に立ちたいなら、言うことを聞いてくれ。オレに構うな。」


その言葉に、春燕が口を開きかけた瞬間――

空を裂くような閃光が走り、雷鳴が轟いた。


「っ!」

雷鳴と同時に、雨が滝のように降り注ぐ。

視界が真っ白になるほどの豪雨。

凌偉の目が僅かに開き、呼吸が急に荒くなった。

喉を押さえ、肩を震わせ、苦しそうにうずくまる。

「凌偉様!?」

「……しばらくすれば治る。頼むから、一人に――」

顔を歪め、何かに耐えるような声に、春燕は息をのむ。


――もしかして、雨の音が…。


雷鳴と雨が、凌偉の何かを抉っているのだと

気づいた瞬間、春燕はそっと彼の頭を自分の胸元に

抱き寄せた。雷鳴と雨の音が届かないように。


優しく、静かに、歌う。


每当花开时,我都会想起你

(花が咲くたび、あなたを思い出す)

那温柔注视着我的你

(優しく見つめてくれるあなたを)

每当星辰闪耀时,我都会想起你

(星が輝くたび、あなたを思い出す)

那轻轻抚触着我的你

(そっと触れてくれるあなたを)

翡翠与黄金

(翡翠や黄金も)

都不及你的眼眸

(あなたの瞳には及ばない)

哪怕是水中的月

(たとえ水面の月でも)

或镜中的花也好

(鏡の中の花でも構わない)

只要能见到你

(ただあなたに会えるなら)

只要能见到你……

(ただあなたに会えるなら…)


春燕の声に合わせ、凌偉の呼吸が少しずつ落ち着いていく。

雨の音が遠ざかり、代わりに春燕の心音だけが響いていた。

「……大丈夫。」春燕は彼の髪を撫でた。


その瞬間、凌偉の脳裏に、かつての懐かしい声が蘇る。


――“大丈夫よ、凌偉。”



「やめろ!!!!」

凌偉は大声で叫び、力任せに春燕を突き飛ばした。

「きゃっ!」

「…っ!なんで!!なんなんだ!!お前は!!!」

激しい怒鳴り声とともに、彼は雨の中へ走り去った。

春燕は立ち尽くしたまま、激しい雨音に包まれる。

冷たい雨が肌を打つたび、凌偉を抱きしめていた

胸の温もりだけが、いつまでも消えずに残っていた。

次回の更新は【明日21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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