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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十四話「雨」1

第十四話「雨」は6分割で更新していきます。これは1つ目です。

 静かな部屋の寝台の上で、春燕しゅんえんはゆっくり目を覚ました。

 “そんな感情、必要ない”

 “二人は俺のせいで死んだのだから”

――その言葉が、まだ胸の奥で響いていた。


朝だというのに部屋は薄暗く、雨の音が壁や屋根を叩いている。

「暗いと思ったら……雨……。」

昨日の南風の湿り気は、この雨を知らせていたのだろう。

春燕は衣を整え、洗濯場へ向かった。


屋敷は妙に静かだった。

いつもなら廊下には人の声や足音が絶えないのに、

今日は息を潜めるような静けさが支配している。

胸の奥に小さな不安が生まれた。


洗濯場では夕月ゆうづき紅花こうか雪麗せつれいがすでに働いていて、

春燕はようやくほっと息をついた。

「今日はどうしてこんなに人が少ないの?」

問いかけると、夕月と紅花が一瞬だけ目を合わせる。

「……雨の時期は、こうなるんです。」それ以上は言えないという顔をして、二人は黙った。


胸のざわつきを抱えたまま、春燕は朝の食卓へ向かった。

凌偉りょういの姿はなく、叔父の恭信きょうしんと、

叔母のきょうだけが席に着いている。

彼の膳も用意されていなかった。

「凌偉は体調が優れないので、今日は休んでいますよ。」

嬌の穏やかな声に、春燕の心が揺れる。

昨日のあの冷たさは――体調のせいだったのだろうか。

気づけなかった自分が、ひどく責められるような気がした。

「あの…私に、何かお手伝いできることはありますか?」

尋ねると、恭信と嬌は困ったように視線を交わす。

しばらく沈黙ののち、嬌が静かに言った。

「春燕……しばらく雨が続きますが、凌偉を見かけても、どうか声をかけないで。そっとしておいてあげてほしいのです。」


どうして?と問いたい気持ちが喉まで上がる。

けれど春燕は、それを飲み込み「……わかりました」と、だけ答えた。


帳場にも凌偉の姿はない。それなのに、誰も驚かない。

取引相手も、客も、使用人も、まるで最初から彼がいないことを知っていたかのように振る舞っている。

その違和感が、春燕の心を締めつけた。


雨が降り続く。


庭仕事もなく、厨房も静まり返り、屋敷全体が息を殺しているようだった。閉じ込められるような空気に耐えきれず、春燕は本邸を歩き出した。

次回の更新は【明日21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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