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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十三話「揺らぎ」6

第十三話「揺らぎ」は6分割で更新していきます。これは6つ目です。

 沈黙だけが、馬車の中を支配していた。

凌偉りょういは目を閉じたまま、何も言わない。

心を閉ざしたように、微動だにしなかった。


春燕しゅんえんは、膝の上で両手を固く握りしめていた。

何か言わなければ——そう思っても、喉が動かない。

「申し訳ありません。」と、言ってはいけない気がした。

けれど他の言葉が見つからない。

ただ、馬のひずめが石畳を叩く音だけが、遠くで続いていた。

屋敷の門が開き、馬車が静かに止まる。

御者の「着きました」という声に、凌偉は

ゆっくりと目を開けた。

けれどその瞳には、何の光もなかった。


春燕が「凌偉様——」と呼びかけようとした

その瞬間、

凌偉は何も言わず、静かに馬車を降りた。

背を向けたまま、屋敷の奥へと歩いていく。

いつもなら帳場へ向かい、夜まで帳簿を広げていた

はずなのに、今日は違った。


彼はそのまま本邸へ、まるで何かに導かれるように

歩いていく。その足取りは、重く、どこか

現実離れしていた。

灯火に照らされた背中は、淡く揺れて、まるで

霧の中を歩く亡霊のようだった。


春燕はただ、その背中を見つめるしかできなかった。

——あの馬車での冷たい瞳。あの声。

「二人は、俺のせいで死んだのだから。」

思い出すたびに、胸が締めつけられる。

凌偉様の心の奥には、私の知らない暗闇がある。

知ってはいけない場所に、踏み込んで

しまったのかもしれない。


足元で、小さな鳴き声がした。

「……豆豆とうとう。」

見下ろすと、子猫の豆豆がすり寄ってきていた。

ふわりとした毛並みが、裾に触れる。

春燕は思わずしゃがみ込み、豆豆を抱き上げた。

豆豆の体温は驚くほどあたたかくて、

震えていた指先が、ゆっくりとほぐれていく。


「大丈夫……大丈夫よ。」

そう呟きながら、豆豆の背を撫でる。

まるで自分に言い聞かせるように。

春燕は豆豆を胸に抱いたまま、消えていった

凌偉の背中を思い浮かべて、ただ、立ち尽くしていた。

屋敷の灯が、静かに夜の闇に沈んでいく。

外では、南風が強く吹き出していた。

重たい空気の中に、遠くで雷の音がかすかに響く。

季節はもうすぐ雨の時期——

 

雨が、降ろうとしていた。

次回の更新は【明日21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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