第十二話「小さな一歩 後編」5
第十二話「小さな一歩 後編」は6分割で更新していきます。これは5つ目です。
数日後、深い闇が倉庫群を包み、虫の音すら
聞こえない。その静寂を破るように、ひとつの
倉庫の扉が“ギィ…”と軋んだ。
中から、そっと灯りが漏れて影が動く。
五、いや十人近い男たちが、荷を担いで
中へ入っていく。
「これで全部か?」低い声――倉庫番の景元だ。
「ああ、十分だ。」先頭の男が笑った。
「明日、県令を引き連れてくれば面白いことになるぞ。
琳家も終わりだ。」
承烈が訝しむように問うた瞬間――
「面白いって……何がだ?」
――パッ!!
倉庫の内部に一斉に灯りがともる。
炎が走り、闇が一瞬で払われた。
「っ!?」
その光の中に立っていたのは――凌偉。
冷たい光を宿した瞳で男たちを見据える。
「琳家に喧嘩を売るとは、いい度胸だな。」
次の瞬間、風が走った。
「なっ――!?」
言葉を発するより早く、凌偉の拳が男の
胸を突き、宙を舞わせる。
そのまま床に叩きつけられ、男は呻き声を上げた。
逃げようとした別の男の足を、凌偉が冷静に
引っかけ、体勢を崩させる。
「ぐっ!」
その胸に一撃。息が止まる音がした。
「琳家が“相手になる”って……そういう意味!?」
春燕は目を丸くしていた。
普段は静かで冷静な凌偉が、まるで別人の
ような動きで敵を倒していく。
そして叔母の嬌――
長い脚が鋭く回り、大柄な男の腹を蹴り抜く。
「ぐはっ!」
そのまま男は柱に激突し、崩れ落ちた。
(お、叔母様まで!?)
春燕は呆然と見つめた。
その動きはしなやかで、美しく、まるで舞を
見ているようだった。
凌偉が短く命じる。
「愁飛、殺すなよ。」
「わかってるよ。」
軽い調子で笑いながらも、愁飛の動きは鋭い。
男たちの攻撃をするりとかわし、掌で軽く肩や
胸を叩く。それだけで、次々と相手が崩れ落ちた。
「触れただけで……?」春燕は息を呑む。
ふと視線を動かすと、叔父の恭信が扇を
振りながら声援を送っている。
「嬌〜!」
「ちょっと静かにしてくださいな!」嬌が睨む。
春燕は思わず吹き出しそうになる。
やがて、残るはひとり。
背を壁に押しつけ、恐怖で震える男――承烈。
尻餅をつき、ずるずると後ずさる。
凌偉が歩み寄る。
「噂を流した本人が、自分で証拠を持ち込むとはな。」
表情は変わらないが、その声には氷のような
冷たさがあった。
「承烈とやら。琳家の者が随分と世話になったそうだな。」
「ぐっ……!」
承烈は小刀を取り出し、飛びかかろうとする。
「だめだよ。」
愁飛の声がした瞬間、男の身体がピタリと止まる。
愁飛が人差し指で額に軽く触れていた。
それだけで、承烈は動けなくなっていた。
「凌偉どうする?心臓を弱らせる?肺を片方潰す?
片腕?片足にしとく?」ニコニコ笑顔で話す愁飛。
「なんだってできるよ。オレは“楊家の化け物”だから。」
柔らかい笑顔が余計に恐怖心を倍増させる。
「やめろ。」凌偉が短く言う。
「こいつらは県令殿に引き渡す。
――琳家が法を乱すわけにはいかん。」
「了解〜。」愁飛は軽く肩をすくめた。
次回の更新は【明日21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ
近づいていく時間を、
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