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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十二話「小さな一歩 後編」3

第十二話「小さな一歩 後編」は6分割で更新していきます。これは3つ目です。

「あれは一月ほど前のことでした。街で“琳家が塩の

 密売をしている”なんて噂が流れ始めた頃……。

 オレの家に、承烈しょうれつという男が

 来たんです。倉庫のことをやたら聞いてきて……。

 怪しかったので追い返しました。」

景元けいげんの声は震えていた。


「それから数日後です。今度は流れの医師が来て、

 妻を見て“重い病だ”と言い出した。

 “薬を飲まなければ手遅れになる”と……。

 妻は妊娠してから、体調も不安定だった。

 オレは不安で……つい、その薬を信じてしまったんです。」


「最初は効いているように見えたんです。

 でも、日に日に悪化して……。

 街の医師に見せようとしていた所にまた、

 あの医師が現れて“このままでは助からない”と。

 “高価な生薬を買えば助かる”と。」

景元は嗚咽まじりに続けた。


「そんな金、あるわけがない。

 でも、助けたくて……そのときまた承烈しょうれつが現れた。

 “金が欲しいならいい話がある”と。

 “お前は琳家の倉庫番だろう? 夜に倉庫の鍵を

 開けてくれれば、金を渡す”って……。」


愁飛しゅうひが小さく息を呑む。

春燕しゅんえんも言葉を失った。

(やっぱり……琳家を陥れるための計画。)


景元は震える声で続けた。

「オレは琳家を裏切れない。

 でも……妻と子を助けたかった。毎日悩んで、

 眠れない夜ばかりだった……。」


春燕は静かに頷いた。

(あのとき、倉庫で見かけた景元の顔色の悪さ……

 そういうことだったのね。)


「景元。あなたは奥様とお子さんを

 守りたかったのね。」

春燕はそっと彼の手に触れる。

「苦しかったでしょう。でも、話してくれてありがとう。」


涙をぬぐいながら景元はうなだれた。

「春燕様……どうして、こんな自分に……。」


春燕は小さく微笑んだ。

「私は琳家に来てまだ日が浅いけれど、

 あなたみたいに、家族を守ろうとする人を

 責める気にはなれないわ。


 私は、あなたを助けたい。

 奥様も、お子さんも、そして琳家も。」


景元の目が大きく開かれ、震える唇から

言葉が漏れた。

「春燕様……。私からも……お屋敷の方々に

 お話しさせてください。」


春燕は柔らかく首を振る。

「大丈夫。凌偉様たちには、私から話します。」


「で、でも――」


「今日は、奥様のそばにいてあげて。

 薬を飲ませて、温かくしてあげてね。」

春燕は景元の手をしっかり握り、優しく微笑んだ。


「景元は、景元の出来ることをして。

 奥様を支えてあげて。」


景元は涙をこらえながら頭を下げた。

「春燕様……どうお礼を言えば……!」


「礼なんていいわ。」

春燕は小さく息を吐き、微笑んだ。


「私はただ――自分に出来ることをしただけ。」

夕陽が差し込み、彼女の横顔を金色に染めた。

愁飛はその光景を静かに見つめ、ふっと微笑んだ。

(……本当に、いい子が来たものだ。)

第一章は毎日更新しています。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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