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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十二話「小さな一歩 後編」2

第十二話「小さな一歩 後編」は6分割で更新していきます。これは2つ目です。

「もう少し…もう少しだから。大丈夫よ…。」

そのとき――。


春燕しゅんえん!」

戸の向こうから声がする。

振り向くと、ついさっき出ていったばかりの

愁飛しゅうひが戻ってきていた。

「これだろ?」

「ありがとうございます…!」

春燕はすぐに薬を受け取り、手際よく分量を量る。


愁飛は傍に座りながら、静かに言った。

「何をすればいい?」

「薬が煎じ上がるまで、せめて呼吸を整えて……。

 出血も止めなくちゃ。」

「わかった。オレに任せて。」

愁飛は芳茵ほういんの手に手を添え、目を閉じる。


春燕は初めて見る光景に息を飲んだ。


空気が揺らぎ、芳茵の荒かった呼吸が、

少しずつ落ち着いていく。


「……嘘、こんなに早く……。」思わず呟く春燕。

愁飛は静かに目を開けた。

「大丈夫。体は弱ってるけど、お腹の子は無事だ。

 ちゃんと生きてる。」


その言葉に景元けいげんの目から涙がこぼれた。

「本当に……? 本当に……!」


春燕は薬を器に移し、芳茵の唇に当てた。

温かい薬湯が喉を通り、わずかに息が深くなる。

しばらくして、芳茵の顔にうっすらと血色が戻った。

その瞬間、春燕はようやく小さく息をついた。


「……良かった。一番の峠は、越えたわ。」

春燕の声は震えていた。


 芳茵は次第に呼吸を整え、穏やかな寝息を

立てていた。窓の外では、夕陽が山の端に沈みかけ、

淡い橙の光が部屋の中に射し込んでいる。


春燕は盆の上の薬包を開き、粉末を指先に取り、そっと香りを確かめた。

「これは……大黄だいおうと……おそらく桃仁とうにんも入っているわ。」

声をひそめて言う。


「妊婦には禁忌の薬なの。少量でも流産の

 危険があるものよ。」


景元が絶句する。

「そんな……!医師が、そんな薬を……!」


「間違えて処方されたってこと?」愁飛が尋ねる。

春燕は首を振る。

「いいえ。薬を扱う者なら、誰でも

 知っていなければならないものなの。

 だから……これは“間違い”じゃない。」

春燕の表情が強張る。

怒りと、恐怖が混ざったような気配。

「おそらく……故意に、渡されたのよ。」


愁飛の目が細くなる。

「なんのために?」


景元は何かを思い出したように顔を歪め、

掠れた声で呟いた。

「……オレのせいだ。」

両手で頭を抱え、震え出す。

「きっと、ああ、そうか……。

 オレは……坊ちゃんに……

 琳家に、なんてことを……。

 オレのせいで、芳茵と子どもまで……!」

錯乱しかけた景元の肩に、春燕はそっと手を置いた。


「落ち着いて。大丈夫よ。」

その声に、不思議な安らぎが宿っていた。

春燕は静かに尋ねた。

「景元、何か知っているなら教えて。

 どんな小さなことでもいいの。」

景元はしばらく口を開けずにいたが、やがて意を

決したように語り出した。

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