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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十二話「小さな一歩 後編」1

第十二話「小さな一歩 後編」は6分割で更新していきます。これは1つ目です。

 街の喧騒から少し離れた場所に、倉庫番・

景元けいげんの家はあった。

石壁は丁寧に磨かれ、窓枠には季節の草花が

植えられた鉢が並んでいる。

屋根の梁には陽に当てるための薬草が整然と

吊るされ、控えめながらもゆとりのある

暮らしぶりがうかがえた。


春燕が戸口に立ち、控えめに声をかけた。

「景元、春燕しゅんえんです。」

しばらくして、戸の隙間から光が漏れ、

景元が慌てて顔を出した。

「春燕様!それに…愁飛しゅうひ!?

 い、いったいどうして…」

「大丈夫。オレのことは空気だと思って。」

愁飛がいつもの調子でニコリと笑う。


景元はうつむき、困ったように呟いた。

「昨日、医師が来て薬を置いていったんですが……

 急に具合が悪くなってきて。」

春燕の表情が一変する。

部屋の奥、薄い布の仕切りの向こうへと

足早に進んだ。


布をそっとめくると、そこには景元の

妻・芳茵ほういんが横たわっていた。

顔は青ざめ、額には冷や汗。

お腹を押さえ、荒く浅い呼吸を繰り返している。


枕元の盆には、冷めた薬湯がそのまま残っていた。

春燕は黙って膝をつき、芳茵ほういんの手を取り、脈を測る。

その顔がみるみる険しくなる。


「医師が処方した薬を見てもいい?」

低く、鋭い声。普段の柔らかな春燕とはまるで違う。


景元も愁飛も、その迫力に思わず息を呑んだ。

枕元の盆には、いくつかの薬包が置かれている。

春燕が一つを開き、香りを確かめると

――その目が見開かれた。


「なんてことを……!!」

 怒りと震えが混じった声だった。


「これは…妊婦に使っていい薬じゃない!」


状況が飲み込めず、景元が狼狽える。

「そ、そんな……医師が、良い薬だと……!」


春燕は筆を取り、素早く紙に文字を書きつけた。


「愁飛様!今から書く生薬を大至急

 買ってきてください!」

声が震えている。だがその手は迷いなく動いた。


黄耆おうぎ白朮びゃくじゅつ当帰とうき……。これを、急いで!」

祈るような目で紙を差し出す。


愁飛は一瞬だけ頷き、「任せろ」と短く言い残して

飛び出した。


「景元はお湯を沸かして!」

「はいっ!」

「お腹と腰を温めて。布団も…冷やさないようにね。」


指示を飛ばしながら、春燕は薬湯の器を手に取り、

香りを嗅ぎ、顔を歪めた。


(やっぱり…桃仁とうにん大黄だいおうが入ってる。これじゃ…出血が止まらない。)


焦りと闘いながら、彼女は芳茵ほういんの額の汗を拭いた。

次回の更新は【明日19時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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