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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十一話「小さな一歩 前編」4

第十一話「小さな一歩 前編」は5分割で更新していきます。これは4つ目です。

 夕方。帳場には凌偉りょういが一人、灯りの下で帳簿に

目を通していた。春燕しゅんえんは緊張した面持ちでその前に

進み出ると、深く頭を下げた。


「……屋敷の外に出たいのです。お許しを

 いただきたくて。」声がかすれる。

喉が乾いてうまく息が吸えない。

自分の鼓動の音が、耳の奥でうるさく響いていた。


りん家に来た翌日。

家と同じように過ごします」と自分で言ったくせに、

今、自分からその約束を破ろうとしている。


胡家にいた頃のように、ただ従順で、家から出ず、

役に立つ存在でいようと決めたのに。

——許されるはずがない。

——でも、それでも。


罰を受ける覚悟はできていた。

だって今まで、どんな痛みだって、

耐えてきたのだから。


帳簿の音が静かに止まる。

凌偉が、顔を上げた。

「構わない。」

「……え?」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

春燕は思わず顔を上げる。


凌偉は真っすぐに彼女を見て、静かに言った。

「そもそも、外に出るのに俺の許可など必要ない。

 買い物にでも行くのか?」

抑揚のない声。淡々としていて、感情の波が

ほとんど見えない。


叱られると思っていた春燕は、言葉を探すように

口を開いた。

「はっ、はい! そうです! ほ、欲しいものが

 ありまして!」焦りで舌がもつれる。


「わかった。街に出るなら護衛をつける。」

「ご、護衛……!? だ、大丈夫です!

 雪麗を連れて行きますので!」慌てて首を振る。

自分なんかに護衛なんて、そんな大げさな——。


「最近、街で琳家の噂を流している者たちがいる。

 何かあってはいけない。」凌偉の声が静かに続く。

「愁飛を連れて行け。」

それだけ言うと、彼は再び帳簿へ視線を戻した。

もう話は終わりだ、という無言の合図。

灯りの下、紙をめくる音だけが部屋に戻る。


春燕はまだ胸の鼓動が収まらないまま、静かに

その場を下がった。…許された。


——本当に、許されたのだ。

次回の更新は【明日19時】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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