第十一話「小さな一歩 前編」1
第十一話「小さな一歩 前編」は5分割で更新していきます。これは1つ目です。
朝の光を受けて白い石畳がきらめき、庭の隅では
春燕、雪麗、夕月、紅花の四人が干しカゴを囲んでいた。
切った芋や梅を並べ、乾燥させて保存食にする。
風が吹くたび、干しカゴの上で薄く切られた芋が
かすかに揺れた。
「そういえば最近、街で変な噂が立ってるんです。」
夕月が、手にした芋を並べながら何気なく言った。
「噂?」春燕が顔を上げる。
雪麗は隣で黙々と梅を整列させている。
「琳家が、裏で塩の密売をしてるって話ですよ。」
夕月の口調は軽いが、言葉の内容は重かった。
「……まぁ。」春燕の手が止まる。
今や塩は、塩鉄専売制度により国が管理している。
塩は国の財源。製造も販売も、私的に扱えば
罪となる。
春燕はかつて凌偉から聞いていた。
琳家の初代と二代目は塩の取引で富を築いたが、
制度が始まると潔く手を引き、他の商いで
再び名を上げた、と。
――なのに、なぜそんな噂が。
「これだけ大きな豪商ですし、妬みですよ。
嫌がらせみたいなもんです。」
紅花が言いながら肩をすくめた。
「そうなの…。」春燕が頷く。
(商いが大きくなれば、それだけ敵も増える。
胡家でも時々あったもの。
琳家ほどの規模なら――もっと大変に違いない。)
目の前の干しカゴにずらりと並ぶ梅を見つめながら、春燕は思う。
琳家の人々は、商いの他に、屋敷の維持から管理、
使用人の生活まですべて把握している。
その働きぶりは、ひとつの国を動かすようなものだ。
(凌偉様たちは、どれほどの重荷を背負っておられるのだろう……。)
「この街は琳家の商いで成り立ってるから、
普通の人は琳家に喧嘩なんて売らないんですけどね〜。」
夕月が呆れたように言った。
「でも街の外から来た連中は違うんです。
琳家の怖さを知らないから。昔から、ちょこちょこ
騙そうとしたり、足を引っ張る輩がいるんです。」
紅花の口調は荒く、どこか怒りが滲んでいた。
「で、今回はその連中が県令様に直訴してる
みたいで……ちょっと厄介なんですよね〜。」
夕月がため息をつく。
「県令様にまで?」春燕の胸が冷たくなった。
県令――つまり、国の代表。
もし噂を信じられてしまったら、琳家であっても
ただでは済まない。
「心配しないでくださいよ」
夕月が春燕の顔をのぞき込み、にこっと笑った。
「この街は商人の街です。商人にとっていちばん大事なのは“信用”。
この街で一番信用されているのは琳家!
よそ者の言葉なんて、誰も信じませんって!」
その言葉に春燕は少し安堵の息を漏らした。
ふと紅花が雪麗のほうを見る。
「雪麗、あんたもう終わったの? 早っ!」
「はい、終わりました」
雪麗は表情を崩さず答えた。
干しカゴの上の梅はすべて均等に並び、
整然としていて――彼女自身の性格そのもののようだった。
次回の更新は【明日21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ
近づいていく時間を、
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