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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第十話「豆豆」2

第十話「豆豆」は4分割で更新していきます。これは2つ目です。

 春燕しゅんえんが廊下を歩けば、必ずその後ろを

ちょこちょこと追いかけてくる小さな影がある。

子猫の豆豆とうとうだった。


掃除をしていても、庭に出ても、帳場の隅に

座っていても――豆豆とうとうは必ず春燕の

そばに寄り添い、まるで「ここが自分の居場所だ」と

言わんばかりに甘える。


その姿に、使用人たちも思わず頬をゆるめた。

豆豆とうとうは春燕様が本当に好きなんだな!

 どこにでもついて行く。」

庭番が笑いながら声をかけると、隣の者も頷く。


「きっと春燕様のことをご主人様だと思って

 いるんでしょう。仕える相手をちゃんと

 見てるんだな。」

花の手入れをしていた庭番が豆豆とうとうの背を

撫でながら言った。

「お前さんもいいお方を選んだな。」


春燕は頬を赤らめ、恥ずかしそうに微笑んだ。

琳家に来てまだ日が浅いのに、豆豆とうとうだけでなく、

使用人たちまでもがこんなふうに温かく

迎えてくれることが嬉しかった。



 そんなある日のこと。

庭仕事を終えた春燕のもとに、数人の使用人が

小さな布包みを差し出した。


「これは……?」

春燕が包みを開くと、中には小さな鈴が一つ。

表面には「豆豆とうとう」と刻まれている。


「手先の器用な者に作らせたんです。」

使用人の一人が少し照れくさそうに言う。

「この屋敷には猫が多いですから、間違えて

 外に出てしまうと大変でしょう。

 これなら鈴の音ですぐに豆豆とうとうだと分かります。」


「春燕様には、いつも感謝しているんです」

もう一人が続けた。


「私たちのような奴婢ぬひ(奴隷)にも気さくに

 声をかけてくださって……名前を呼んで

 くださるだけでも嬉しいのに、怪我をすれば

 すぐに手当まで。本当にありがたいことです。」

その言葉に周りの使用人たちも一斉に頷いた。


春燕は手のひらの上の小さな鈴を見つめ、

胸がじんわりと温かくなるのを感じた。


「……こちらこそ、ありがとう。こんなに素敵な

 ものをいただけるなんて、本当に嬉しい。」


豆豆とうとうの名が刻まれた鈴を指で

なぞりながら、春燕は愛おしそうに目を細めた。


その姿を見て、使用人たちは

「なんてお優しい方なのだろう。」と改めて

心を打たれ、ますます春燕を慕うようになった。

次回の更新は【明日21時】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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