表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/112

第十話「豆豆」1

第十話「豆豆」は4分割で更新していきます。これは1つ目です。

 帳場を後にした二人は、並んで庭園を歩き、

それぞれの仕事場へ向かっていた。

緊張感の残る帳場から抜けたせいか、

春燕しゅんえんの表情は少し柔らいでいる。


その時――。

足元にふわりと小さな影が現れた。


「まあ!おチビちゃん!」

春燕が思わず声を弾ませる。

子猫がとことこと寄ってきて、彼女の裾に

顔をすり寄せた。

しゃがみ込んでそっと抱き上げると、

子猫は安心したように胸にすっぽり収まり、

ゴロゴロと小さな喉を鳴らす。


「知っている猫なのか?」

凌偉りょういが、思いのほか親しげな様子を

興味深そうに見ている。


「はい。庭園の掃除をしていると、よく

 近づいてくるんです。

 本邸にも顔を見せに来るんですよ」

春燕は子猫の頭をなでながら、嬉しそうに答えた。


「屋敷の中でも何匹か見かけましたが……猫を

 飼っているのですか?」春燕が問い返すと、

凌偉は淡々と答える。

「ああ。猫はネズミを追う。倉庫や厨房や書庫を

 荒らされないように飼っている。」

どうやら凌偉にとって猫も使用人扱いのようだ。


「ふふ……」

春燕は思わず抱きしめ、顔をほころばせる。


「猫が好きなのか?」

「はい。実家でも世話をしていた猫がいました。

 でも……私が琳家に来る少し前に亡くなってしまって。」

春燕は一瞬表情を曇らせた。

その声には、普段見せない寂しさが滲んでいた。


凌偉はその横顔をしばらく見つめ、ふと口を開いた。

「それなら、その猫を貴方にあげよう。」

「えっ……?」

驚いて目を見開く春燕。


「貴方に懐いているようだ。他に理由がいるのか?」

あくまで淡々とした調子。

しかし、それはまるで「当然のこと」とでも

言うようだった。


「……よ、よろしいのですか?

 琳家の大切な猫を、私なんかに。」


だが凌偉は、なぜ彼女がそこまで躊躇するのか

理解できない様子で、きっぱりと言った。

「構わない。名前をつけてやればいい。」


「名前……。」

春燕は子猫を抱き直し、じっと見つめた。

全身は茶色の縞模様。背中と前足に、

豆のような白い模様が浮かんでいる。


「……豆豆とうとう豆豆とうとうにします!」

ぱっと花が咲くように笑い、春燕は声を弾ませた。

「ありがとうございます、凌偉様!」


「礼は必要ない。貴方の猫だと分かるように、

 目印でもつけておけ。」

そう短く言い残し、凌偉はひとり廊下を進んでいった。

その背中を見送りながら、春燕は子猫に顔を寄せる。


豆豆とうとう……あなたは素敵な

 ご主人様のもとにいるのね。」

小さな頭をそっと撫でると、子猫は

嬉しそうに目を細めて、さらに喉を鳴らした。

次回の更新は【明日21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ