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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第九話「帳場 後編」1

第九話「帳場 後編」は3分割で更新していきます。これは1つ目です。

 春燕しゅんえんが帳場に通いはじめて、五日が経った。


今は文禄ぶんろくの指導のもと、仕入れ記録の

写しに取りかかっている。

前日の取引内容をまとめて清書するだけ

――のはずなのだが、数字の書き間違いひとつで

琳家の信用が揺らぐ。


だからこそ、息を詰めるような集中が必要だった。

一文字、一文字、指先に意識を集中して

筆を走らせる。最初は緊張で肩がこわばったが、

五日目には自分ひとりでも作業を

進められるようになっていた。


 ――楽しい。


ただ文字と数字を写しているだけなのに。

見慣れない商品の名を見るたびに胸が高鳴る。


どんな道を辿って、どんな人の手を経て、

これらの品は琳家に届くのだろう。

国を越え、山を越え、海を越えて。

――想像するだけでわくわくした。


中でも一番心が躍ったのは、生薬の記録だった。


(これ…!これ全部、生薬の材料!)


凌偉りょういからりん家では生薬の取引もしていると

聞いてはいたが、まさかここまで多いとは

思わなかった。


それを知れただけでも、帳場に来てよかった

――そう心の底から思った。


一通り書き終え、春燕は小さく息を吐いた。

そして、ふと前の机にいる凌偉を見つめる。

そろばんを驚くほどの速さで打ち、帳簿に

さらさらと記していく。


整った顔立ちは微動だにせず、ただ淡々と、

精密な動きを繰り返していた。

帳場の使用人たちも同じだ。誰ひとりとして

無駄な動きがない。


「帳場の使用人たちは別格」

――夕月ゆうづき紅花こうかが言っていた言葉を思い出す。

確かにそうだ、と春燕は思った。

彼らは琳家の頭脳。

商家の中でも選ばれた精鋭ばかりだ。仕事は楽しい。


でも――自分はただの写し書き。

本当に役に立てているのだろうかと、

ふと不安がよぎる。


「春燕様。」文禄の落ち着いた声が響く。

「これから取引がございます。

 私は席を外しますので、何かあれば他の者に

 お聞きください。」

「わかりました。」


文禄が立ち上がると、凌偉もほぼ同じタイミングで

席を立った。


「凌偉様も?」春燕が慌てて声をかける。


「オレは別件だ。客が来る。

 顔を出してくるだけだ。」


短く言い残し、数名の使用人を連れて

承光楼を出ていった。


「はい。いってらっしゃいませ。」

春燕は頭を下げ、凌偉の背を見送った。

次回の更新は【明日21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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