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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第六話「隠し事」3

第六話「隠し事」は5分割で更新します。

これは三つ目です。

 しばらく歩くと、路地の入口で少女が声をかけてきた。

「あの……愁飛しゅうひさん、今いいですか?」


「いいよ。雪麗せつれい、少し寄ろうか。」

彼は穏やかに答え、少女を人気のない

路地裏へ誘った。


雪麗も後を追う。


「初めてだから緊張してる?」

愁飛しゅうひが低い声で尋ねる。

「はい……でも、愁飛さんなら。」

少女の頬が赤く染まる。雪麗は息を呑んだ。


二人の空気が、近すぎる。


――まさか。


「な、何をしているんですか?」

思わず声が出た。


愁飛は振り返り、苦笑した。

「いや、違う違う。こうやって“気”の巡りを

 整えてるだけ。」

愁飛と少女は手のひらを合わせていた。

手の間には、確かに温かな空気が流れていた。


「気の…巡り…?」雪麗が尋ねる。


少女は深呼吸をし、次第に表情が和らいでいく。

「この街は人も物も多くて、気が乱れやすいんだ。

 とくに女の子は、月の巡りや体調にも

 影響されるからね。」

雪麗は愁飛のその言葉に耳を傾ける。


 初めて聞く“気”というものに、

こんなにも不思議で穏やかな力があるのか。


「街中の女の子は愁飛さんやよう家の門下生の方に

よく助けてもらってるんです。」少女も答える。


ああ…だから街中で声をかけられてたのか…。


「ありがとうございました。」

少女は頭を下げて去っていった。


「楊家は代々武術家一族なんだけど、

 気の扱いに長けててさ。オレぐらいになると、

 それはもうすごい効力なんだよね〜!」


「……そうですか。」

雪麗は素直に受け止められず、視線を逸らす。


「そういう訳で、はい!どうぞ!」


「何ですか?」

「気を整えてあげる。」

愁飛は雪麗に向けて両手を出す。


「結構です。」

雪麗が反射的に答えると、愁飛は笑った。


「遠慮しないで。街に出てから、

頭が痛かったでしょ?」

雪麗の目が見開かれた。


なぜそれを。

彼女の中の警戒が一瞬にして解ける。


「手は触れなくていい。

 ただかざすだけでいいから。」

半信半疑のまま、雪麗は愁飛の手の上に

両手をかざした。


愁飛が静かに言う。

「深呼吸して。」


その声に導かれるように息を吸うと、

掌の間にぬくもりが広がっていった。

次第に全身を駆け巡る心地よい感覚が広がる。


まるで湯に浸かっているような暖かさだ。

頭痛も治り、胸の奥の冷たさが、

ゆっくりと溶けていく。雪麗は目を開けた。

愁飛の笑顔が、光の中に滲んで見えた。

次回の更新は【明日19時】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が少しずつ

近づいていく時間を、

皆さまにも見守っていただけたら嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや応援をしてもらえると励みになります。

感想もとても嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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