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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

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第六話「隠し事」2

第六話「隠し事」は5分割で更新します。

これは二つ目です。

 初めて目にする市の規模に、雪麗せつれいは息を呑んだ。

道の両脇には立派な商家が、

どこまでも続く通りにずらりと並び、

陽光を浴びて輝いている。


露天の商人たちが声を張り上げ、

買い手を呼び止める。

馬車の車輪が石畳を軋ませ、老若男女様々な

人々の声とひずめの音が絶え間なく混じり合う。


「ここは大通り。市は朝八時の開門から

 開かれてるんだ。」愁飛しゅうひがそう言いながら、

手で人の波を避けるように雪麗を導いた。


「ね、言った通りでしょ?」

いつものように笑う愁飛に、雪麗は小さく

うなずくだけだった。


「……はい。」


胸の奥で脈打つ鼓動がうるさい。

圧倒されるほどの活気だ。

山間の街で見てきた寂れた市とは、あまりに違う。


「愁飛!この前はありがと!」

「愁飛さん、また来てね!」

通りを行く先々で、声がかかる。ほとんど女性だ。


愁飛は軽く手を上げ、ニコニコと笑顔で応える。

「オレ、けっこう人気者だからね。」

愁飛が笑って言う。

凌偉りょういの次にモテるんじゃないかな。」

「……そうですか。」

淡々と返す雪麗の声には、感情の揺らぎはなかったが、内心では――少し羨ましい、と思ってしまった。

人に向けて自然に笑えることを。


「届け物はどこまで?」

「小豆屋の李思達りしだつ様です。

 忘れ物をされたそうで。」

思達しだつさんか。なら近いよ。」

愁飛に導かれ、通りを一つ抜ける。


小豆屋はこぢんまりとした店だが、

人で賑わっていた。

用件を伝え品を差し出すと、主人が深く頭を下げた。

「わざわざすまないね、琳家のお嬢さん。」


雪麗も頭を下げる。その瞬間、

雪麗の被巾ひきんが滑り落ちた。


店内のざわめきが、ぴたりと止む。


雪麗の髪が光を受けて柔らかく輝き、

空気の温度が変わったようだった。


「……まあ、なんと見事な。」

「まるで絹糸みたいだ。」

「琳家の者だって?あんな美しい娘がいるとは。」


人々が口々に囁き、雪麗を囲む。


その目に、憧れと好奇と、少しの嫉妬が入り混じる。

雪麗の胸がざわついた。息をするのも苦しい。


周りからの視線に手がわずかに震える。


「はいはい、時間なので終了ー!

 思達さん、またご贔屓ひいきに!」

愁飛が雪麗の前に立つ。

満面の笑みで人々の注意を軽く受け流すと、

雪麗をそっと外へ導いた。


人混みを抜け、静かな通りへ出る。


雪麗は息を吐いた。

胸がまだ早鐘を打っている。

「……すみません…。」

かろうじて言葉を絞り出すと、

愁飛は笑って首を振った。


「いいよ。」

愁飛はそう言いながら、少し遠回りの道を歩く。

人の少ない道をわざと選んでいる…。

その優しさに気づいたが、

雪麗は何も言えなかった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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