間の話 3
本邸の中庭に、豆を広げた竹のざるが三つ並び、
夕月、紅花、雪麗が肩を並べて座っている。
鳥の声と、豆をはじく指先の音が静かに響いていた。
「雪麗ってさ。春燕様と姉妹みたいだよねぇ。」
夕月が軽い調子で言った。
「姉妹だなんて!…お嬢様は、私にとって何よりも
大切なお方です。お仕えする身として――」
雪麗は思わず顔を上げ、慌てて首を振る。
「真面目なんだから。」
紅花が笑いながら豆をひとつつまみ上げ、
汚れたのをポイッと隣のざるに投げた。
「小さい頃から一緒なんでしょ?」夕月が尋ねる。
「はい。私が五歳、お嬢様が三歳のころから、
ご一緒しています。」
雪麗の声が少し柔らかくなった。
「そうなんだ。初めて会った時、お揃いの髪飾り
つけてたから仲良いんだろうなって思ってた。」
紅花がちらりと雪麗の頭を見た。
「これは、琳家に向かう馬車の中でお嬢様から
いただいたものです。大切な宝物です。」
雪麗は、赤い髪飾りにそっと触れた。
「私は、お嬢様の婚約祝いに梅の簪を
差し上げました。」
その言葉とともに、雪麗の顔がふんわりと緩む。
「梅は早春を告げる花ですし、3月生まれの
お嬢様に相応しい花だと思いました。
まぁ、美しい花はどれもお嬢様に相応しいですが。
四君子(梅・蘭・竹・菊)のひとつで、
高潔な人格を象徴するとも言いますし。
歳寒三友(松・竹・梅)の一つとして、
冬の寒さに負けずに咲く、強い梅は、
まさにお嬢様そのもので――。」
「お、おおぅ……。」
夕月と紅花が同時に小さく唸った。
「なに? 雪麗って春燕様のことになると、
こんなに語るの?」
夕月が笑い、紅花もつられて吹き出す。
「……す、すみません。」
雪麗は頬を赤らめてうつむいた。
「でもわかるわ〜。春燕様のこと、
本当に大切にしてるのねぇ。」夕月が優しく言う。
「本当は、もっと立派な簪を
贈りたかったんです。
けれど、どうしてもお金が足りなくて……。
それだけが、心残りです。」
雪麗は少し寂しげに笑った。
二人は目を合わせて、そっと微笑む。
――いい子だなぁ。
雪麗と春燕の絆は、誰が見ても本物だった。
凌偉様が贈った宝飾品をすべて辞退したと
聞いたときは驚いたけれど、今なら納得だ。
これは勝てない。
*
そのころ、廊下の角。
風が吹き抜ける中、愁飛と凌偉が並んで歩いていた。
ふと、庭から笑い声が聞こえてくる。
「……どうりで受け取らないわけだ。」
愁飛が笑みを浮かべる。
春燕にとって大事なのは、値じゃなくて、
想いのこもったものなのだろう。
隣を見ると、凌偉は黙ったまま、
わずかに眉を寄せていた。
愁飛は面白くてニヤニヤしてしまう。
「……なんだ、愁飛、その顔は。」
「やきもち?」意地悪く愁飛が聞く。
「くだらん。」
「やきもちだ〜。」
愁飛が笑うと、返事の代わりに凌偉の足が
コツンと彼の脛を蹴った。
「いって……っ! 図星だな。」
愁飛が笑う声が、秋の風に混じって消えていった。
『四君子』
中国の文人・書画の世界で
「高潔な人格・理想の徳」を象徴する
四つの植物のこと。
『歳寒三友』
「冬になって周囲の木が枯れても、
なお青く・香り・成長を保つこと」から
逆境にあっても志を失わない人格を象徴する。




