第五話「贈り物と意地悪 後編」4
第四話「贈り物と意地悪 後編」は4分割で更新していきます。これは4つ目です。
凌偉は目を細め、淡々と告げた。
「琳家では薬剤の取引もある。
生薬の品質くらいなら俺でも見分けはつくが、
薬を作る知識や経験はない。貴方にはある。
それは俺より優れているとは言えないのか?」
声色は冷静なはずなのに、どこか憤りが混じっていた。
春燕は慌てて首を横に振る。
「そ、そんな……凌偉様より優れているだなんて!」
信じられないと言わんばかりに。
居たたまれず、春燕は足元を見つめた。
凌偉はそんな彼女の顔をじっと見つめながら、
心の中で思う。
――使用人たちは皆、彼女のことを
「素直で頭が切れる」と言う。
器量もよく、物覚えも早い。
客にも使用人にも分け隔てなく接し、思慮深く、
人を思いやる心を持っている。
文字も読め、字も書け、記憶力は抜群。
こんな娘、他にいるだろうか。
興味と苛立ちが胸の奥でせめぎ合う。
「……貴方には秀でているものが沢山あるのに、
なぜそんなに自信がないんだ?」
思わず口をついて出た問い。
春燕は肩を震わせ、俯いたまま呟く。
「女は……家のために嫁いで子供を産むだけです。
本を読めても、薬を作れても……
“何の役に立つのか”と……
ずっと言われてきました。」
「誰に?」凌偉の声が低く、冷たく響いた。
その瞬間、春燕の顔が固まり、青ざめる。
表情が雄弁に語っていた――これ以上は
言えない、と。
凌偉は一拍置き、ふっと息を吐いた。
「……わかった。書物を読むのが好きなら、
また持ってくる。」
「え……?」春燕が顔を上げる。
「夜は時間があるのだろう?なら読書に使え。
灯りも好きに使え。
……少しくらい自分の好きなことに時間を使え。」言葉の端に優しさが混じった。
「俺が言うのもなんだが……貴方は働きすぎだ。」
その空気に、春燕の強張っていた表情も
少しだけ緩む。
「……はい。」
「書物は部屋に置いておけ。
あとで取りに行かせる。」
そう言い残して、凌偉は背を向け、
自室へと歩き出した。
渡り廊下を進みながら、心の中で考える。
――胡家の状況は調べてある。
七年前に母を病で失い、後に義母と義姉が
胡家に入った。代々続いてきた材木の商いは
傾き続けている。そこまでは分かっている。
だが、家の内情まではわからない。
家族仲はどうなのか。
琳家に持ち込まれた荷も必要最低限
だけだったと聞いている。
やけに働き慣れていることも気にはなっていた。
先程の言葉や表情……どう見ても「普通」ではない。
――そんな家よりも。
(俺のそばにいれば――)
その思考に気づいた瞬間、凌偉は足を止めた。
「……は?」
自分の心が発した言葉に、戸惑いが隠せない。
気持ちと行動がちぐはぐで、
どうにも収まりがつかない。
凌偉は深く息を吐き、思わず頭を抱えた。




