表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第一章「氷心、春に融く」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/112

第五話「贈り物と意地悪 後編」1

第四話「贈り物と意地悪 後編」は4分割で更新していきます。これは1つ目です。

 爽やかな午後の風が庭を吹き抜け、

木々の葉を揺らす。


凌偉りょういは竹巻の端をトントンと無意識に

指で叩きながら、ぼそりとつぶやいた。


「……オレに好意を寄せない娘がいるのか?」


部屋の長椅子に寝そべっていた愁飛しゅうひが、

にやにやしながら振り返る。


「なにそれ、モテ自慢?」

心の奥では――おもしろくなってきた、と

嬉しさを噛みしめていた。


愁飛は知っている。


凌偉が琳家の当主で、途方もない財を

築く大豪商だということ。

容姿端麗、頭脳明晰、真面目で冷静。

武も嗜み、街を歩けば老若男女の

視線を集める。


……あまりに完璧で腹が立つほどモテるのだ。


「何をそんなに気にしてるの?」

半身を起こし、愁飛が問いかける。


「親が決めた相手とはいえ、向こうは

 当然オレに好意を持っていると思っていた。」

凌偉はあくまで当然のように答える。


「なのに、取り入ることもしない。

 ……仮にも婚約者である自分と、使用人や、

 その他大勢を同じ扱いにする。」


頭の中に蘇るのは、春燕のあの言葉。


“私では役不足です。

相応しい方をお選びください。”


真っ直ぐで、強い意志を帯びた言葉だった。


「なぜ、このオレが断られなければならないんだ?」

腕を組み、庭先の木々を睨むように眺める。


愁飛はこらえきれずニヤリと笑う。

「凌偉さ、あの子に気に入られたいんだろ?」


「そんな訳ない。」凌偉は即座に答える。


「どうだか。」

愁飛は心の中で本気で面白がっていた。

無愛想な凌偉が、

誰かに“興味を持ち始めている”


――それだけで十分に事件だ。


庭を見つめる凌偉は、昨日からずっと

落ち着かない。何故こんなにも苛立つのか。

……いや、きっと最近仕事が立て込んでいるせいだ。仕事の疲れのせいに違いない。


(仕事……そうか、仕事だ。)


何かを思い出したように凌偉は顔を上げた。

次の瞬間、愁飛に大量の書物と竹巻を

抱えさせ、足早に庭先へ向かった。

 

ドサッ!

「これは?」


本邸の庭先で豆の筋を取りながら

日向ぼっこをしていた春燕は、

突然積まれた山を見上げ、目を丸くする。


「琳家の取扱商品目録と米の取引記録。

そして琳家の家訓だ。」

どこか誇らしげに告げる凌偉。


「琳家の役に立ちたいのなら、全てに目を通せ。」


今まで押しかけてきた娘達にも同じ課題を

与えてきた。誰もが驚き、困惑し、やがて挫折した。


字を読める者など稀なのだから。

――存分に困ればいい。身の程を思い知らせてやる。


ほんの少し意地の悪い気持ちが顔に滲んだ、その時。


「こんなに……沢山の書物を……

 読んでもいいのですか!?」

パァッと春燕の顔が輝いた。

目を輝かせ、竹巻を両手で抱きしめる。


「……。」

今度は凌偉の方が言葉を失う。

予想外の反応に呆然とするしかない。


「書物は好きです!ありがとうございます!」


満面の笑顔。

嬉しさを隠そうともしないその姿に、

愁飛は笑いを堪えるのに必死だ。


「ああ……そうか……それは……良かった……。」


凌偉はただ圧倒され、ぎこちなく言葉を

返すしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ