第四話「贈り物と意地悪 前編」1
第四話「贈り物と意地悪 前編」は5分割で更新していきます。これは1つ目です。
琳家本邸の隣には、武道の家柄・楊家の道場がある。
代々琳家に仕えてきた一族で、琳家一族の護衛、
屋敷の警備から運搬の警備まで一手に担っている。
その跡取りなのが――このオレ、
楊愁飛21歳!いえーい!
凌偉とは、生まれたときから一緒の幼馴染であり、
そしてオレの主様。
で、その無愛想で仕事人間な凌偉に、
とうとう婚約者(仮)がやって来たってわけだ。
しかもめちゃくちゃ可愛い!
いやー羨ましい!
あの色恋に関心ゼロだった凌偉も、今ごろ
幸せいっぱいに違いない。
……せっかくだから、からかってやるか。
「凌偉ー!いるー?」
遠慮もなく扉を開け、凌偉の書斎へ入る。
机に並んだ竹巻の上に筆を走らせていた凌偉が、ちらりとこちらを見た。
「なんだ」
いつもと同じ澄ました顔。
――けどオレにはわかる。
めっちゃ機嫌悪い。仕方がない。
少し話を聞いてやるか。
*
「ぷっ…はははは! 初日から家事手伝いって!
ひー!お腹痛ぇ!」思わず机を叩いて笑い転げる。
「笑い事じゃない。」
声は落ち着いてるけど、不機嫌全開だ。
「朝から洗濯、薪割り、水汲み、庭掃除、廊下磨き…。厨房の洗い場にもいた。」
そう言って、凌偉は筆を置き、近くの棗に手を伸ばした。
「今日は馬小屋の掃除と餌やりも手伝っていたそうだ。」
呆れ声でそう言いながら、棗の皮を剥いて口に運ぶ。
「はははっ! 完全に使用人じゃん!」
オレも棗をつまんで口に放り込みながら笑う。
「うちの使用人より働いてるぞ。すぐ根を上げると思っていたのだが…」
棗をもう一つ手に取り、凌偉は淡々と続ける。
「挨拶以外でこちらに話しかけてこない。ここ数日、まともに言葉を交わしていない。」
「うわぁ、今まで来た娘と全然違うタイプだな。」
オレはニヤニヤしながら肘をついて話を聞く。
面白くて仕方ない。今まで押しかけてきた女の子達は
みんな凌偉にお近づきになれる機会を常に伺っていたからな。
「気に入られたくて働いているわけでもなさそうだし…。
商家の娘だと聞いていたが、あんなに奴婢(奴隷)のように働く者は見たことがない。」
凌偉の声には、困惑と少しの苛立ちが混じっていた。
実際、春燕が屋敷に来てからというもの、
使用人全員が彼女の話題を持ち出してくる。
常に春燕とあれをしただの、これをしただの…。
必要のない報告ばかり。
おかげで凌偉の仕事は滞りがちだった。
「確かに“好きに過ごせ”とは言ったが…。
このままでは取引相手から
『琳家は婚約者を使用人扱いしている』と
誤解されかねない。琳家の面子に関わる。」
頬杖をつき、渋い顔をする凌偉。
「いやいや、まだ来たばかりなんだし。
緊張してるんだよ、きっと。」
「婚約者(仮)なんだからさ、もうちょっと仲良くなったらどう? 贈り物とかさ。」
「贈り物?」凌偉が顔を向ける。
「そう。“ようこそ琳家へ”って。歓迎と、大切にするって気持ちが伝わるでしょ?」
ふむ、と顎に手をやり考え込む凌偉。
そしてすぐに頷くと、使用人に命じて街の
商人たちを呼び寄せた。




