第三話「琳家」7
第三話「琳家」は少し長くて7分割で更新していきます。これで第三話は終了です。
春燕は、凌偉を見送ったあと、昨日の洗濯物の残りに手をつけ、
雪麗と薪割りまでやろうとしたが、
「そんなこと、春燕様にさせられませんからぁ〜!」
「庭園でも散歩してきてくださいっ!」
まるで子どもを叱るように夕月と紅花に言われ、追い出される形になる。
仕方なく庭を歩きながら、せめて落ち葉ぐらいは…と箒を持っていた春燕。
ところが庭の奥で声が飛んだ。
「お嬢ちゃん!そこは気をつけな!苗を育ててるんだ!」
驚いて足を止めると、足元には細い縄で囲われた小さな苗床があった。慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません。足元を見ていなくて…」
庭番の男は怒るどころか、にかっと笑った。
「なんだ、お嬢ちゃん見かけない顔だな。新入りか?」
「はい。春燕と申します。よろしくお願いします。」
そう言ったとき、春燕の微笑みがぱっと花開いたように見えた。
その輝きに庭番は思わず言葉を忘れ、見惚れてしまう。
はっとして慌てて問い返す。
「えっ、ええと…お嬢ちゃんは庭番なのか?」
「いえ、私は――」
ちょうどそのとき、庭の奥から夕月が走ってきた。
「あー!ここにいた!春燕様ぁ〜!」
「夕月!この子の知り合いか?」庭番は春燕を指差す。
「あーえっとぉ…。この方は坊ちゃんの…婚約者の春燕様です。」
その瞬間、庭番の顔が真っ青になる。
「もっ、申し訳ありません!!とんだ無礼を!
庭番の呉 柏樹と申します!」
深々と頭を下げる庭番に、春燕は慌てて両手を振った。
「いえ、私が先に名乗らなかったのが悪いの。柏樹さん、
このお庭を手入れしているのはあなたなの?」
「は、はいっ。庭番は十五人おりますが、
それぞれ持ち場を分けて掃除や手入れをしております。」
「そうなの。こんなに美しいお庭、初めて見たわ。
皆さま、本当に丁寧にお仕事をなさっているのね。」
柔らかい微笑みに、柏樹は呆けたように固まった。
凌偉様の婚約者に、こんな風に褒められるなんて――想像もしなかった。
「昨日来たばかりで勝手がわからなくて…。
もしご迷惑でなければ、
庭園のお仕事を教えていただけるかしら?」
「は、はあ!!? い、いや!迷惑なんてとんでもない!」
驚きに目を白黒させながらも断りきれず、柏樹は春燕を仕事場へ案内するのだった。
午前の用事を終え、書庫へ向かうために庭を横切った凌偉は、庭番たちの話し声を耳にする。
「春燕様、手際がいいんだよ!」
「花や草木の知識もあるしな」
「さっき俺の手の傷を見てくださって、
薬まで塗ってくれたんだ。
名前も覚えてくれてさ…。」
包帯をさすりながら、庭番達は誇らしげに語る。
「優しい方だよなぁ…。」
みんなが口々に春燕を褒めている。
「そういえば、朝に庭掃除をすると言っていたな。」
凌偉は小さくつぶやき、特に気にする風もなく歩みを進める。
その先、本邸の厨房からも笑い声が聞こえてきた。
中で一緒に野菜を洗っているようだ。
昨日来たばかりとは思えないほど、春燕は自然に屋敷の人々と打ち解けている。
「まるで使用人みたいだな。」
これまで凌偉に気に入られようと、使用人の真似事をする娘たちは大勢いた。
「さて…今回のはいつまで保つのやら。」
彼は無表情のまま、心の奥でそう感じながら書庫へと向かっていった。
第三話「琳家」の後に、
「間の話」と「登場人物目録1」を追加します。




