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水月鏡花―中華恋愛譚・静かに灯る初恋―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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間の話 2「逢引の余韻」

 初めての逢引は、何事もなく終わった。

春燕しゅんえんを部屋まで送り届けたあと、凌偉りょういは自室へ戻る。


静かな夜だった。

外では虫の声が微かに響き、灯の明かりが壁に

落ち着いた影をつくっている。


凌偉はいつもよりゆっくりと椅子に腰を下ろし、

そこでようやく、一日の余韻が胸の中に広がっていくのを感じた。

そして、両手で頭を抱える。


「春燕…可愛すぎる…!」

声に出してしまった。

押し殺すこともできなかった。


今日の春燕は、新しい衣を身にまとっていた。

淡い水色の衣。

春燕の雰囲気に寄り添うような、やわらかく澄んだ色。


薬局に入ったときの小さな戸惑いの目。

点心を頬張る時の、嬉しそうに細められる目元。

両腕いっぱいに生薬を抱えて、歩いていた姿。


一つひとつ思い出すだけで、

緩んでしまう顔をどうにもできない。

気になる子との外出がまさかこんなに…


「楽しいなんて…。」

思わずこぼれた言葉は、どこか信じられないような響きを帯びていた。


今まで取引相手や客から誘われて

食事や、もてなしを受ける事は多かった。

相手側もあわよくば…と自分の娘、親戚、部下の身内から

馴染みの妓女まで。

様々な女性を凌偉と引き合わせてきたが、仕事の一環として

話すだけで、楽しいなどの感情は芽生えなかった。

しつこく迫ってくる娘もいたが、全て断ってきた。


春燕だけは――違う。


その事実を思うたびに、胸の奥にじんわりと温かなものが灯る。


「次、どこに行こうか…。」

自然と、言葉が漏れる。


今日買った生薬がなくなるのは一週間ほど。

次の逢引は、おそらくその頃だ。


それまでに仕事の日取りを調整して。

薬局のあと、どこで食べよう。

春燕は甘いものも好きだった。

だったら、あの茶館はどうだろう。


一つの予定を考えるだけで、心がふわりと浮き立つ。

まるで、新しい商いを始める時のような。

計画を組み立てながら、未来が明るく立ち上がっていくような。


凌偉は、確かに高揚していた。

春燕と過ごした時間が、静かに、けれど確かに、

彼の中の何かを変えていた。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。

春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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