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獅子は光と絆を結ぶ

それからのセシリアたちの行動は早かった。

どんどん暗くなる森の気配に追い立てられるように、彼女たちはセシリア主導の元夜を明かすための準備に走った。

火を起こす者、馬車の荷台に寝床を確保する者、人攫いたちの持ち物のわずかな食糧から食事を準備する者。

一方レオンはと言えば何か手伝うと申し出るたびに彼女たちに激しく拒絶された。

「そんな!恩人であるレオン様の手を煩わせるなど!」

「ここは私たちに任せて、どうぞ火の側でお休みください」

「あの、もしよければルミアリエ様に祈りを捧げさせていただいてもよろしいでしょうか……?」

「……」

困ったようにセシリアに視線を向けても、セシリア自身も苦笑するだけで止めようとはしない。

仕方なく、レオンはその辺に放置していた男たちの死体を、邪魔にならないところへ移動させ、黙って火の番と化した。


そして夜も更けてきた時間。

干し肉と野菜の切れ端のスープを口にした女性たちが、薄い布にくるまって地面へと横になる。

幸い、ルミアリエの"淡光の輪"はうっすら光を発しながら、その内側の気温をある程度保ってくれるらしい。

おかげで、誰一人凍えることなく、安心して休息をとることができた。

そんな微かな寝息と炎がはじける音を聞きながら、レオンは森の木々の隙間から空を眺めていた。

「隣、いいかしら」

かけられた声に視線を落とせば、セシリアと視線が合う。

レオンが頷いたのを確認すると、セシリアはレオンから少しだけ距離を空けて地面に腰を下ろした。

「……スープ、本当によかったの?」

それは皆が眠りにつく少し前。

限られた食材で作られたスープをレオンは受け取らなかった。

正直、レオンから見てそれが食欲をそそるようには見えなかった。

それに、目が覚めて半日が経過した中で、レオンは空腹を感じていないことに気づいたのだ。

その時は「それっぽっちじゃ腹の足しにもならない。それなら食べない方が逆にいい」と断った。

レオンとしてはそれだけのことだったが、目の前のセシリアがそのことを気にしていると気づき、わざとらしく肩をすくめた。

「言っただろう、あれっぽっちじゃ足りない、と。町に戻ったら報酬でうまいもんでも腹いっぱい食うさ。報酬、期待していいんだろう?」

そう悪戯っぽく笑うレオンに、セシリアは数回瞬きをした後、ふふっと笑みをこぼした。

「えぇ、もちろん。町中のおいしい物を食べても余るくらい用意してもらうわね」

「そりゃ楽しみだ」

お互い顔を見合わせて笑いあう。くすくす、とまるで内緒の話のように小さな笑い声が森に響いた。

「ねえ、ルミアリエって光の精霊よね?もしかして、貴方ってオルカ教国の関係者?」

セシリアが空いていた距離を詰めるように体を乗り出す。

興味を示す瞳の奥に、どこか探るような冷静さが見えた。

レオンは、小さく「オルカ教国……」と呟くとゆっくりと焚火の炎へ視線を戻した。

レオンがどこからきたのか。

いつかは聞かれるとは思っていた。

しかし、彼女は侯爵家の令嬢、下手な嘘は自分の首を絞めることになる。

「……信じてもらえないかもしれないんだが……俺はここじゃないどこか遠くにいて、気が付いたらここにいた」

「それは……過去の記憶がない、ということ?」

「いや、元居た場所の記憶はある」

記憶を呼び起こせば真っ先に思い浮かぶのは"水城"としての記憶。

両親や弟の顔、友人たち、それからレオンとしてヴァルディス・オンラインで遊んだ日々。

「どこで暮らしていたとか、家族や、仲間たちのこと、戦い方もな」

炎に落とされた瞳から感情は読み取れない。

それが望郷なのかそれとも別の感情なのか、セシリアには判断ができなかった。

「……よければ、貴方のいた国の名前を教えてくれない?もしかしたら知ってるかもしれないし、知ってる人を探せるかもしれないわ」

セシリアの言葉にレオンは少し考えるようなそぶりを見せた後、ぽつりぽつりといくつかの単語を口にした。

「ヴァルディス、アルカディア船団、第6コロニー、日本……聞き覚えは?」

「……いいえ、聞いたこともないわ」

「そうか」

しばらく2人の間に沈黙が流れる。

炎がはぜる音、暗闇から聞こえる生き物の鳴き声だけが響く中、沈黙を破ったのはレオンだった。

「……君の精霊、ライオネル、だったか?とても美しくて立派な――うお!」

途端、レオンの視界が白く染まる。

眩しさに目を細めながら顔をあげれば、いつもの微笑みはどこへやら、不機嫌そうに頬を膨らますルミアリエの姿があった。

「どうしたのか」と尋ねてもルミアリエはつんと顔を逸らす。

困惑するレオンにセシリアは柔らかな表情で声をかけた。

「貴方が他の精霊を褒めたから、拗ねてるんじゃないかしら」

セシリアの言葉にもう一度ルミアリエへと視線を戻す。

いつもゲーム内では微笑みをたたえてプレイヤーの側に付き従うだけだった精霊。

それがこんなにも感情を表現することに驚きながらも、それもそうかと納得する。

ゲーム内における光の精霊、ルミナリエとの出会いのストーリーを思い出す。

ルミアリエは感情豊かすぎて、そのせいで他の精霊たちからのけ者扱いされていた。

だから自分を認め必要としてくれる主人公に着いていこうと決めたのだ。

そんなレオンにとっては昔の記憶を懐かしみながらもう一度ルミアリエの名前を呼ぶ。

「ルミアリエ……悪かった。俺にはお前が必要なんだ……機嫌、直してくれないか」

そう言いながら、ルミアリエの白いベールを撫でるレオン。

金色の瞳に懇願するように見つめられたルミナリエは満足したのか、コクリとひとつ頷くと再び元居た場所へ戻った。

「……恥ずかしいところを見せたな」

「ふふ、いいえ。ライオネルも同じように拗ねてしまうことがあるの」

セシリアは胸元から赤い石を取り出すと、目を細めて大事そうに握りしめた。

「この子は私個人じゃなくて、リオネス家と契約している精霊……でも、生まれた時から傍にいてくれたライオネルは私にとって家族同然だから」

そう言って顔をあげると、ルミアリエへと視線を移す。

「貴方たちからも同じものを感じるのよ。お互い確かな絆で結ばれている、と」

「……そう、か」

セシリアにつられるようにルミアリエへと視線を向けるレオン。

"水城"からするとルミアリエはただのゲーム内のキャラクターに過ぎない。

だが、水城自身がヴァルディス・オンラインで経験したこと、感じたこと、それら全てを肯定されたような気がした。

「そうだと、いいな」

ぽつりと口から漏れ出た言葉は果たしてどちらのものだったのか。

それはレオン自身にもわからなかった。

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