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獅子は星を喰らう

「……誰だ、テメェ」


突如現れたレオンの姿にあたりに緊張が走る。男たちは武器を構え、レオンを囲むように距離をとる。剣を構えるもの、距離をとり弓を構えるもの、そのすべての注意と殺気がレオンへと向けられる。

しかしレオンは止まらない。

静寂の中、鋭い殺気を受けているはずのレオンはそれを全く気にすることなく足を進め、今だセシリアの髪を掴んだままの男の近くまで寄ると、ようやく歩みを止めた。

立派な武器を背負い隙のないその動きから、誰もがレオンを歴戦の猛者だということを理解する。

しかし武器を構えることなく、周囲の男たちへは視線を一切向けず、ただ立っているように見えるレオンの様子に周囲の男たちもどうしたらいいのかわからず、レオンに武器を向けながらもその視線はレオンの前にいるリーダー格の男へと向けられていた。

男はじっとレオンを観察するような視線を向けつつ立ち上がると同時に髪を掴まれていたセシリアの表情がさらに苦痛に歪む。

「その手を、放せと言っている」

もう一度、レオンの口から発された言葉が静かながらも空気を震わせた。その星を抱えた瞳はただまっすぐ目の前の男を射抜くように向けられている。

「……チッ」

男はその瞳ににらまれた瞬間に感じた冷たい何かが背を這うような感覚を打ち消すように、舌打ちをすると掴んでいたセシリアの髪を放し、地面へと打ち捨てる。

「ッ!」

再び地面にたたきつけられたセシリアの表情が苦痛に歪み、同時にレオンの表情が険しくなる。

「ほら、お望み通り放してやったぜ?」

「……彼女たちを置いてとっととこの場から失せろ。そして二度と彼女たちの前に現れるな」

「……調子に乗ってんじゃねぇぞ」

ニヤニヤと小馬鹿にするような言葉もレオンには通じず、ただ淡々とそう命じるかのような様子に男の表情が変わる。

そして男がそう吐き捨てるように言ったと同時に背中の大剣を構えた瞬間、周囲の男たちの空気が変わった。

構えていた弓が引き絞られ、剣の切っ先がレオンを狙う。一瞬の静寂ののち、男の「やれ!」という怒声が響いた。


最初にレオンに向けられたのは遠距離からの弓での狙撃、計3本の矢がレオンへと到達する直前、まるで何かにはじかれたように地面へと落ちる。

途端に男たちの間に動揺が走るが、なんてことはない。ただ、圧倒的レベル差の前に攻撃が通らなかっただけだ。

レオンは想定通りと言わんばかりに落ちた矢を一瞥すると、狙撃手たちに向かって視線をあげた。

「ブレイズ・チェーン」

レオンがそう呟いたと同時に、3人の狙撃手たちの足元から炎でできた鎖が現れその体に巻き付く。

プレイズ・チェーンは対象の動きを数秒間制限し、その間炎のダメージを与え続けるという中級の魔法スキルだ。

だが、それが現実になると対象となった人間は体に巻き付いた炎の鎖で焼かれることになる。たった数秒とは言え、その炎のダメージにより地獄を見せるには十分な時間だった。

生きたまま炎で焼かれる男たちの悲鳴と、人の肉が焼かれる不快な匂いが風にのってあたりに漂う。

「チッ、武器ははったりで魔術師かよ!小癪な!魔法を使わせる前に叩き潰せ!」

大剣を持った男の号令の元、剣を構えた男たちが一斉にレオンへ襲い掛かった。レオンは特に構えることなく、ただ自然体でその腰に下げた剣を抜く。

「星喰い」

漆黒の色を持ったその刃は鞘から抜かれた瞬間、夜空に瞬く星のような輝きを纏った。そのあまりの美しさに男たちはみな一瞬動きを止める。そんな男たちに目をくれることなくレオンがひとつその剣を振るった瞬間、男たちの目の前を流星が通り過ぎた。だがそれを認識できるものはいない。なぜなら流星を認識したときにはすでに男たちの命は刈り取られた後なのだから。

糸の切れたマリオネットのように地面に倒れ伏す男たちは誰一人息をしているものはいなかった。

星喰い、レオンの持つ≪星滅の刃オルティアス≫が持つ特殊能力でその剣を抜いた瞬間、周囲の敵から生命エネルギーを吸い取り自分を強化する効果を持つ。

「な、なんなんだテメェは…!」

ぎりぎりその星喰いの範囲に入らなかった大剣を構えた男が驚愕に目を見開く。その瞳には隠し切れない恐怖が見えた。だが、それでもレオンの前から逃げ去ることはしない、いやできなかった。

仲間をすべて殺されてなお、男の中にはプライドとレオンに対する怒りがあった。冷静な判断ができる状態であったならば、いくつもの修羅場を乗り越えてきたこの男は自分の命を第一に考え撤退という選択をするだろう。しかし、レオンの現実離れした強さと今の状況に狂気に侵された男はある意味錯乱状態だと言える。

「くそがァァアアアア!」

そう叫びながら振り下ろされる大剣。大振りながらも素早い動きはその男の力量の高さを表しているが、レオンにとっては止まって見える程度の動き。

一度鞘に納めた剣を再び抜くことなくレオンはわずかに体をずらし、攻撃をよけるとそのまま握った拳を男の腹部へと叩き込んだ。

どん、と空気が波打つ。

その余波を受けた建物が軋み、馬が恐怖におびえ、届いた衝撃に女性たちが悲鳴を上げた。

そんな力を直接受けた男はといえば、鍛えられていたであろう腹部には拳型のクレーターができ、口や鼻、耳といった穴という穴から血を吹き出し絶命していた。


そしてその場に立っていたのは最初に姿を見せた時と同じく、ただその場に立つレオンのみだった。

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