閑話 王太子視点 王妃教育のクラリスを助け出して許してもらいました。そして末永く幸せに暮らしました
俺はやりたくもないアニエスの世話を母に命じられて仕方なしにやっていたのだ。
まあ、ゴモラのダンジョンがスタンピードを起こした原因を探る意味もあったけれど。
母からはクラリスに説明してはいけないと言われていた。
しかし、さすがにサマーパーティーでクラリスをエスコートしないのは嫌だと母には主張したのだ。
「嫌だ嫌だって、うるさいわね。私もちゃんと王妃の役割を果たしているのに、あなたは王太子の役割を放棄するわけ」
母が逆ギレをしてきたが、何が王妃の役割だ。貴族の妻達とお茶して、後は礼拝堂で祈るだけではないか!
でも、賢明なことに俺は何も言わなかった。
一度小さい時にそう言ってしまった事があったのだ。
「ならば、あなたが祈りなさい!」
母はそう怒って自分の部屋に籠もってしまったのだった。
それから三日三晩大雨が降って、大地は大変なことになった。
俺は父や宰相からとてつもなく怒られて、母に謝らさせられたのだ。
母が礼拝堂に入って祈り出すとピタリと雨が上って太陽が雲間から覗いた時は心底驚いた。
俺はそれ以来母にはその事は言わないようにしていた。
しかし、今回だけは俺も引けなかった。
「あなたがクラリスをエスコートしたければすれば良いでしょう。教会がスタンピードを起こしたと証拠が挙がったのなら良いんじゃないの」
しかし、俺は母の言葉に何も話せなかった。
この時はまだ、証拠が掴めていなかったのだ。
俺は涙を飲んでアニエスをエスコートすることにしたのだ。
しかし、今回の件を母からの命令で仕方なしにやっているという旨を延々と言い訳して、好きなのはクラリスだけだと手紙に書いたのに、それを読まずに捨てられていたとは思ってもいなかったのだ。
前もって宰相にもセドリックにも話をして、いざという時はフォローして欲しいと頼み込んでいたのに!
あいつら本当に何もしてくれていないじゃないか!
もう宰相もセドリックも信じない。
俺は心に決めたのだ。
俺はなりふり構わず謝りに行くことにしたのだ。手土産のイチゴを一杯持って。
しかしだ。今回はなんと門番に止められてしまったのだ。
そんな……
会えなかったら、謝りようもないではないか!
もう、なりふり構っている暇はなかった。
「クラリス、申し訳なかった!」
俺は大声でクラリスの部屋に向かって叫んだのだ。
門番等はぎょっとしてくれた。
「殿下、さすがにそれは」
門番達が慌ててくれたが、お前らが俺が中に入るのを止めてくれたのだ。ならばここで謝るしかないではないか!
道いく者全てが、俺を見ていくが、そんなのもうどうでも良かった。
「本当に申し訳なかった!」
「クラリス申し訳なかった」
俺がやっとホールまで入れてもらえるようになったのは喉が枯れだした一時間後だった。
でも、それ以上先へは、入れてくれなくて、クラリスは二階から降りても来てくれなかったのだ。
俺は失意のままその日は帰った。
それは翌日も同じだった。
「殿下、さすがに毎日来られても……」
「そうですよ。殿下。クラリスも1週間もすれば忘れますから」
宰相とセドリックはお気楽に言ってくれるが、お前らが元々ちゃんと俺のフォローをしてくれないからだろうが!
俺がじろりと睨み付けると二人は目をそらしてくれた。
「我々共も王妃様の命令がございましたから」
「くそう! あの鬼ばばあ! そんなに俺とクラリスの仲を潰したかったのか!」
俺は完全に切れていた。
「殿下、幾ら殿下の母上とは言え鬼ばばあはまずいのではないですか」
「何を言う、そもそも貴様等も少しくらい、俺とクラリスの間を取り持ってくれても良いだろう!」
俺が睨み付けると
「王妃様の命令は絶対でしたから」
セドリックが平然と言ってくれた。
こいつ俺の側近のくせに俺よりも母の言うことを聞くのか!
俺が怒りの籠もった目で見ると、
「殿下。娘宛に、明日に王太后様からお茶会の招待状が来ておりました。王太后様にお願いされたらいかがですか?」
「お祖母様か……」
宰相の言葉に俺は黙り込んだ。
母はまだ文句も言えるが、祖母はもっと苦手だ。
出来たら話したくない。
でも、このままではらちがあかない!
仕方がない。俺は2人のお茶会会場に行くことにしたのだ。
王太后の前で頭を下げるしかないだろう。
幾らお祖母様でも、少しくらい俺の肩を持ってくれるはずだ。
しかし、俺は満を持して会場に行ったら、会場には祖母しかいなかった。
「お祖母様。クラリスはどうしたのですか?」
俺が慌てて聞くと、
「クラリスならお前の母親に礼拝堂に連れて行かれたよ」
「ひょっとして叱責されているのですか」
俺は母がクラリスを虐めている未来しか見えなかった。
「うん、まあ、どうだろうね。お前の母親が王妃教育に連れて行ったんだが……」
「王妃教育って、クラリスはお妃教育はある程度出来ていると聞いていますが」
絶対に虐めだ。それに違いない。俺は確信したのだ。
「うーん、王妃教育にも色々あるからね。まあ、そろそろお昼だからお前が迎えに行ってやっても良いんじゃないか」
「判りました」
俺は慌てて礼拝堂に向かったのだ。
「クラリス。何しているの。あなたこんな事も出来ないの?」
俺は怒り狂っている母の声を聞いた。
「すみません。でも、この人達が可哀相で」
「可哀相でも、あなたがやるしかないのよ」
母の声が聞こえた。
俺はクラリスを救うために、扉をノックしたのだ。
「誰よ!」
母の怒り声が聞こえたが、
「俺です。お昼に迎えに行けと王太后様から言われまして」
俺は祖母のせいにしたのだ。
こうすれば母も文句を言えないはずだ。
「本当にお義母様はどうしようもないわね」
礼拝堂の扉を母が開けてくれた。
「エミール様!」
俺を見たクラリスは目を輝かせてくれた。救いの神が現れたように俺を歓迎してくんれたのだ。
今までの塩対応が嘘みたいだった。
さすがお祖母様!
俺は生まれて初めて祖母に感謝したのだった。
それからはお昼と三時と夕方にクラリスを迎えに行くことにしたのだ。
母はいやそうな顔をしたが、王太后様の命令できたと言えば何も言わなくなった。
さすが、王太后様の力は偉大だ。
「ちょっと、エミール、今日はクラリスはまだ全然出来ていないのよ! それを連れ出すなんて、許さないわ」
母が激怒しても、
「なに言っているんですか? クラリスはお妃教育はほとんど出来てます。母上こそ、つまらない瑕疵を見つけてはクラリスを虐めていると、王宮で噂になっていますよ。姑の嫁いびりだって!」
俺は平然と言い返したのだ。
「な、なんですって! 誰が言っているのよ」
母が俺の言葉に鬼婆の様相で睨んでくれたが、
「騎士団長でしょう。魔術師団長でしょ、果ては王太后様も言われていましたよ」
「なんですって、あの糞ばばあ!」
「その言葉そのまま、告げ口しますね」
「いや、ちょっと待ちなさい。それは……」
さすがの母も真っ青になった。
「じゃあ、クラリスを連れて行きますから」
「……」
唖然としている母をほっておいて、俺はクラリスを連れ出したのだ。
母のつまらないプライドのために、クラリスを毎日虐めてくれるから俺は満足にクラリスとお出かけも出来なかったが、まあ、このわけの判らないお妃教育の賜で、クラリスとは仲直り出来たのも事実だ。
俺はほんの少しだけ母に感謝した。
「はい、クラリス」
俺はクラリスにイチゴを食べさせた。
「おいひい!」
クラリスは口に含んで呟いたので、少しかんでいた。可愛い。
それに食べる時の笑顔が美しかった。
「ほら、もう一つ」
俺がクラリスの口の中にイチゴを放り込んだ。
「ちょっと、クラリス。どこにいるの? 早く来なさい。時間よ」
遠くで母素の声が聞こえた。
母は早すぎるのだ。
「あっ、行かないと」
クラリスが立とうとした時だ。
俺は思わずクラリスを抱きしめていたのだ。
「えっ?」
クラリスが驚いて俺を見てきた。俺は構わずにクラリスの唇を奪っていたのだ。
クラリスは抵抗しようとしたが、俺は許さなかった。
いつの間にかクラリスが抵抗をやめていた。
「クラリス!」
母の声が遠くでしたが、俺は無視して、クラリストのキスを堪能したのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
新作『悪役令嬢に転生したみたいだけど、王子様には興味ありません。お兄様一筋の私なのに、ヒロインが邪魔してくるんですけど……』
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始めました。読んでね(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
ユリアーナは3歳の時にそれまで一人で育ててくれていた母を亡くした。その場にいたホフマン公爵が親切にも養子にしてくれたのだ。そこには4人の兄と姉がいて世間でよくあるようにそれからは虐められはしなかった……ただそれ以上の試練が待っていたのだ。武の公爵家に男子に代々伝わる試練を知らぬ間に受けさせられて死にかけて前世の記憶を思い出したり、お兄様の課す騎士の死の特訓に付き合わされたり、令嬢らしい生活がしたいと言ったら、礼儀作法の先生にお兄様の特訓以上と感じる講義を受けさせらりたり……そんなユリアーナが王立学園に入ったらピンク頭の聖女が王太子クラウスに抱きついていたのだ。なんでも、この世界は乙女ゲームの世界で王太子の婚約者のユリアーナが悪役令嬢で王太子と仲良くなるピンク頭をあまりにも酷く虐めるから嫌気がさした王太子に婚約破棄されて断罪されるゲームらしい。ちょっと待って! 王太子の婚約者は私のお姉様で私は違うんだけど……それに私はお兄様命なのだ。勝手に軟弱王太子の婚約者にするなと叫び出しかねないユリアーナと最強お兄様を筆頭に3人の兄と一人の姉がいるホフマン家を中心に動く学園コメディ。聖女と教会が出してくる罠が次々にユリアーナを襲うが、果たしてユリアーナはその罠を防げるのか? 大好きお兄様との仲はどうなる。詳しくは読んでのお楽しみです。今回も1日2話更新目指して頑張ります。