閑話 王太子の愚痴 母の言うことは二度と聞かないと心に決めました
「聖女と親しくなってあなたが聞き出しなさい」
「はい?」
俺は母の言葉に絶句した。
今回のゴモラのスタンピードが人為的に起こされた可能性が大だと魔術師団から報告が上がってきたのだ。魔術師団長も騎士団長もそれを疑っていたし、教会が関わっている可能性も十二分に考えられた。
その上での両親の指示なのだが……
何で俺がまた聖女と仲良くしないと行けないのだ!
ゴモラ討伐で騎士団長と魔術師団長から頼まれて仕方なしに面倒を見て、その結果クラリスの激怒を受けたところなのだ。
元々この鬼母は俺の婚約者をクラリスにするのに反対していた。
顔合わせの時に盛大に転けてくれたクラリスを見て
「こんなドジな子で果たして王妃をやっていけるの?」
と否定的だった。
「我が儘で気に入らない家庭教師も次々に首にしているみたいだし」
その我が儘というのが、俺にはよく判らなかった。
引っ込み思案とか、内気とか言うのなら判るが……
ケーキを食べさせると本当に美味しそうに食べるクラリスを守るのは俺様だ。
クラリスは俺の隣で笑ってくれていれば良いのだ。
そう思ってここまで来た。
今までは俺の王子教育とクラリスのお妃教育が忙しくて、あまり一緒に過ごせなかったが、せっかく王立学園にクラリスと一緒に通える時が来たのだ。喜んでいたら、聖女が横から何かと邪魔してくれた。本当にむかつく聖女だった。
ぼけ聖女のせいでクラリスが激怒してくれて、許しを請うのに本当に大変だったのに……そのクラリスがやっと許してくれたと思ったのに、母はなんてことを言うのだ。
「だってあなたは王太子じゃない。それにアニエスとも同じ学園にいるし、アニエスはあなたに好意を持っているでしょう。聞き出すのはあなたが適任よ」
絶対に鬼母には別の企みがあるはずだ。
鬼母は聖女のアニエスを気に入っているみたいだった。
あの我が儘ぶりといい、冷酷さといい王妃にぴったりなんだとか。
おいおい、王妃が我が儘で冷酷でどうするんだよ。
平気で人を殺せるところがまた良いとか抜かしているけれど、そんなのが王妃で良いのか?
まあ、この鬼母も国のためならば平気で人を殺すだろうが……
アニエスは何かというと自分のでかすぎる胸を俺に押しつけてくるのだ。俺は騎士団長と違って別にでかい胸が好きなわけではない!
まあ、俺も男だから少しくらいは気にするが……
でもあのアニエスはクラリスが見ている時にかぎって胸を押しつけてくれるのだ。
絶対に俺とクラリスの仲を真っ二つに引き裂きたいからに違いない。
クラリスの機嫌が最近とても悪い。
でも、今回アニエスに近づく件については俺はセドリックとも相談したのだ。
今度はお前がやってほしいとセドリックに頼んだのに……
「殿下は俺とエマの仲を邪魔するつもりですか!」
セドリックの奴は逆ギレしてくれた。
じゃあ、俺とクラリスの仲がどうなっても良いのか?
「大丈夫です。俺がクラリスと殿下の仲が悪くなったらフォローしますから」
そのセドリックの言葉を信じた俺が馬鹿だった。
クラリスの俺に対する態度がどんどん悪くなっていくのだ。
俺がセドリックを見てもセドリックは明後日の方角を見てくれるんだけど……おかしくないか!
お前がなんとかするって言ってくれたじゃないのか?
側近達も鬼母の言う言葉を聞いて、俺とクラリスを会わせてくれない。
聖女につけた騎士団長の息子は息子で、もう聖女の面倒は見られませんと騎士団長にボコボコにされた顔で俺に言ってくれるんだけど……
ちょっと待て! 騎士団長等が聖女からいろいろ聞き出せと頼んできたのに、自分の息子を外すなどどういう事だよ!
外れたいのは俺だ!
「どうなっているんだ!」
俺は騎士団長を呼び出して怒鳴り散らした。
「何をおっしゃっているんですか? クラリス様に隣国の王太子殿下が手を出そうとしていらっしゃいますから、それを防ぐために息子をクラリス様の親友につけることにしたのです」
いけしゃあしゃあと騎士団長は言ってくれるが、元々自分の息子に聖女から教会の関与を聞き出させたら良かっただろうが!
結局俺でも聖女から聞き出せなかった。
クラリスからは冷たい視線で睨まれるわ、マクシミリアンはクラリスのエスコートをしようと暗躍するわ、俺はもう散々だった。
俺はセドリックを呼び出して、どんなことがあっても俺の色のドレスをクラリスに着せるように命じたのだ。
俺は一緒につけた手紙に今回アニエスに近づいたのは王妃の命令で、嫌嫌やっている旨を延々と書いて、本当に好きなのはクラリスだけだと恥も外聞もなく十ページに渡って書き込んだのだ。
なのに、なのにだ!
それが読まれる間もなく、燃やされるとは思わなかった。
俺は今回の命令を実行するに当たってロワール公爵にもちゃんと了解を取っていた。というか、俺が命令を受けた会議に公爵も出ていた。
なのに、まさか、真っ赤なゴンドワナ王国の色のドレスをクラリスが着てくるなんて思ってもいなかった。
俺は今回の作戦を実行する前に、クラリスにも簡単に謝っておいたし、やばくなったら公爵やセドリックが俺を助けてくれると思ったのだ。なのに、なのになんのだ!
どいつもこいつも嘘ばっかりではないか!
馬鹿なアニエスはやっとぼろを出してくれた。それも俺の可愛いクラリスを罠にかけようとしてだ。
俺は完全に切れていた。
アニエスと教皇に対して捕縛出来るように指示を出して、両親に報告したのだが、
「別にあなたの婚約者をアニエスに変えても良いのよ」
平然と母は言ってくれたのだ。
俺は完全に切れた。
調べろと言ったのは母なのに、それを調べた結果、不問にしても良いと母が言い出したのだ。
「何を言っているのですか? 今回のスタンピード、クラリスがいなければ国が滅ぶところだったのですよ」
俺はきっとして母を睨み付けたが、
「それはないわよ。いざとなったら私がなんとかしたし……」
母が訳の判らないことを言っていたが、俺は無視することにした。
俺はクラリスをスタンピードの犯人にして断罪して婚約破棄しようとしたアニエスからクラリスを守りきり、逆にアニエスを捕縛した。
クラリスを守り切れて俺は満足だった。これでクラリスも俺を許してくれるだろう。
俺は自信を持ってそう思ったのだ。
なのに、なのにだ!
俺様は怒り狂ったクラリスが張り倒されてしまったのだ!
何故だ……クラリスに一緒にいたかったのに、国のためだと皆が言うから無理してアニエスと一緒にいただけなのに……
これもそれも絶対に鬼母のせいだ!
俺は二度と鬼母の言うことなんか聞かないと心に決めたのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
エミールの愚痴でした。
新作も現在考えています。
もう少しお待ちください。
短編上げました
『婚約破棄されやけ酒飲んでると軽い男が声かけてきたので張り倒したら、何故か執着されました』
https://ncode.syosetu.com/n2191kg/
私の書籍作品の表紙絵等と一緒にリンクはこの10センチくらい下に張っています。
こちらも書籍もよろしくお願いします








