王妃様が私を呼ぶ声が聞こえたのに、エミールは私にキスしてきて中々離してくれませんでした。
それからの王妃様の女神教育は本当に大変だった。
もう厳しいのなんのってものじゃなかった。
こんなことも出来ないの? と馬鹿にされる毎日だったのだ。
やはり、王妃様は自分の後釜はアニエスにした方が楽だと思っていたみたいだ。
「確かにあの子は馬鹿で考えなしだったかもしれないけれど、人に対して非情になれたわ。それに比べたら、あなたは優しすぎるのよ。あの子みたいに自分のためなら平気で人殺しも辞せないくらいの気構えでないと、女神なんてやってられないわよ。困っている人を全員を救うことなんて絶対に出来ないんだからね!」
私が余計なことをして、人を助ける度に、王妃様は文句を言ってくれた。
仕方がないじゃない! 私が少しの努力で困っている人を助けられるのなら、出きることなら助けてあげたい。
でも、それを王妃様、いや女神様は許せないみたいだ。
「本当に、あなたは馬鹿よ!」
でも、そう言いつつもなんやかんやで助けてくれる王妃様も人が良いとは思うんだけど……
いや、それは間違いだ。
下手したら、崖から私を突き落としてくれそうだし、この前なんて、本当に突き落とされたんだから。
絶対に優しくはないと思う。
王宮の礼拝堂は天国というか空の上に転移陣で繋がっており、私達は即座に移動できるのだ。そこで、私が人助けをしていたら、
「あなたは、いい加減にしなさいよ!」
と怒り出して、そのまま地上に突き落とされたのだ。また、天界に上がるのが本当に大変だった。
一方、私とエミールの仲だが、なしくずし的に元に戻ってしまった。
それは確かにエミールは私に相談もせずにアニエスと接触していて、それは許せなかった。
しかし、エミールは私の唯一の味方なのだ。それも平気で王妃様に文句を言ってくれるのだ。悲しいことに王太后様は女神教育については王妃様に任せきりだった。
「あなたは幸せよ。私は女神教育の時は、鬼の王太后様に本当に徹底的にいびられたんだからね」
折に触れて王妃様はそう言ってくれるんだけど、どこまで本当かはわからないが、ある程度は事実っぽかった。
女神教育で、私がもう無理だと思ったお昼時に、三時のおやつに、夕食の前に、エミールは颯爽と王妃様の前に現れて、私を連れ去ってくれるのだ。
私が出来なくて、王妃様に泣かされている時も、平然と現れて、私を救ってくれた。これ程頼もしい男はいなかった。
「ちょっと、エミール、クラリスはまだ全然出来ていないのよ! それを連れ出すなんて、許さないわ」
王妃様が激怒しても、
「なに言っているんですか? クラリスはお妃教育はほとんど出来てます。母上こそ、つまらない瑕疵を見つけてはクラリスを虐めていると、王宮で噂になっていますよ。姑の嫁いびりだって!」
エミールは平然と王妃様改め女神様にも反論してくれるのだ。
「な、なんですって! 誰が言っているのよ」
お妃様が、エミールの言葉に更に眉を吊り上げるんだけど、
「騎士団長でしょう。魔術師団長でしょ、果ては王太后様も言われていましたよ」
「なんですって、あの糞ばばあ!」
「その言葉そのまま、告げ口しますね」
「いや、ちょっと待ちなさい。それは……」
王妃様は真っ青になっていた。
「じゃあ、クラリスを連れて行きますから」
「……」
唖然としている王妃様をほっておいて、私を連れ出してくれるのだ。
エミールには絶対に女神教育については話してはいけないと王妃様からきつく禁じられているから、王妃様が世界を運営していくとても大切な事を私に教えてくれているなんて、エミールも周りの者も全然知らない。みんなは単に王妃様が私に八つ当たりしているだけだと思ってくれているのだ。
「クラリス嬢。なんか大変そうだけど、良かったら、我が国に来ない? 国を挙げて歓迎するよ」
たまには私に甘い言葉をマクシム様がかけてくれた。
「この女たらしいの皇太子。何しているんだ。こんなところで?」
「誰が女たらしだ。お前こそ、偽聖女にでかい胸を押しつけられて、喜んでいたじゃないか」
エミールに見つかっては二人は喧嘩していた。
「いや、違うからな。クラリス。俺は胸を押し付けられても、決して喜んでいたのではないからな」
エミールは私に必死に言い訳してくれるんだけど。
私が、伯爵令息だと思ったマクシムは正式な名前はマクシミリアン・ゴンドワナ。ゴンドワナ王国の王太子で、王太后様が紹介してくれるという王太子は彼のことだったのだ。
だから、彼が来るとエミールはとても警戒するのだ。
マクシムのこともぼろかすに言うし。
まあ、でも、私のクラスメートだから、そこまで酷く言うのも止めてほしいんだけど。
そう言ったら、エミールが更にうるさくなるから言われないけれど。
確かに、アニエスに対して取っていた行動も私としては許せないのだが、対王妃様のことがあるから、忘れることにしたのだ。
今エミールと喧嘩してエミールが迎えに来てくれなかったら、王妃様の相手を下手したら夜通ししなければならなくなる。それだけは何としても避けたかった。
そう、私の平穏のために、エミールと喧嘩する訳何はいかないのだ。
まあ、それに、エミールがアニエスの相手をしていたのは女神様の命令だったみたいだから。
私も悪役令嬢を全くやらなかった手前、あまりきつく言う訳にもいかなかった。
「はい、クラリス」
私はエミールが食べさせてくれたイチゴを口に含んだ。
「おいひい!」
口に含んで呟いたので、少しかんだ。
でも、相も変わらず、王宮のイチゴは美味しい。
「ほら、もう一つ」
エミールが私の口の中にイチゴを放り込んでくれる。
「ちょっと、クラリス。どこにいるの? 早く来なさい。時間よ」
遠くで王妃様の私を呼ぶ声がした。
「あっ、行かないと」
私が立とうとした時だ。
エミールが私に抱きついてきたのだ。
「えっ?」
私が驚いてエミールをみたら、唇を奪われていた。
ちょっと、エミールまずいって。
私はそう思ったが、エミールは私を抱いた手を更にきつく抱きしめてくれたのだ。
私は頭の中が霞がかって、きた。
「クラリス!」
王妃様の声が遠くで聞こえたが、中々エミールは離してくれなかった……
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
仲良くするクラリスとエミールでした。後でクラリスが怒られたのは言うまでもありません……
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