それから王妃様の恐怖の教育が始まってしまいました
私は翌日王太后様のお茶会に呼ばれたのだ。
王太后様には一学期の間全然お会いしていなかったし、久しぶりでとても楽しみにしていたのだ。
送り迎えすると申し出たエミールを無視して、私は王宮に公爵家の馬車で行った。
私は王宮に着くとすぐにいつも王太后様とお茶する中庭に案内されたのだ。
「王太后様、お久しぶりです」
私は満面の笑みを浮かべて王太后に挨拶したのだ。
「あら、私には挨拶はしてくれないの」
「えっ!」
私は王太后様の横に座っている人物を見て固まってしまった。
そこには不機嫌そうな王妃様がいたのだ。
「王妃様。いつもご機嫌麗しく」
私が慌てて挨拶すると
「王太后様とは全然違うのね」
王妃様にめちゃくちゃ不機嫌そうに言われてしまった。
「いえ、その、あの」
私はドギマギしてしまった。
「あなたとは人間のできが違うのよ」
「何を言っているのです。単にお義母様はクラリスに甘い顔をしていただけでしょう。少しでも普通の態度を取っていたらクラリスでも」
「カロリーヌ!」
「はい!」
じろりと王太后様が王妃様を睨むと慌てて王妃様は口を閉じた。
「今回は私の勝ちね」
王太后様が笑っておっしゃられた。
「お義母様は卑怯ですよ」
「何が卑怯なの? 私はあなたみたいに何も干渉はしていないわよ。あなたでしょ。エミールにクラリスをほっておいて、もっとアニエスを大切にしなさいって命じたのは。そんなことしたらあの子が反発するのは判りきっているのに」
「だって、あの子、最初からクラリスに夢中なんですもの。信じられないわ。悪役令嬢に攻略対象が首ったけになるなんてあり得ないわ」
「えっ?」
笑って話す王太后様に王妃様が反論するんだけど、私は何故王妃様の口から悪役令嬢の名前が出てきたのか全然判らなかった。
「言ったじゃない。この子の方が余程ヒロインに向いているって。あなたはどう見ても悪役令嬢にしか見えないアニエスをヒロインなんかにするからよ」
「だって、この子は中々こちらの世界に来なかったんだもの。私も初めてだったから一番に来た子をヒロインにしてあげたのよ。それにどう考えても気の強いあの子の方が女神には向いていますわ」
「?」
私は王太后様と王妃様の話す言葉が理解できなかった。
何故二人とも悪役令嬢って知っているんだろう?
それにアニエスをヒロインにしたって何?
女神様の名前も出てきたんだけど、何の話なんだろう?
「あなたまだ判らないの?」
王妃様が私を馬鹿にしたように見てきた。
「ほらっ」
王妃様が自分で魔術をかけると髪の色と顔が変わって……
「めっ、女神様!」
私は目を大きく見開いて思わず立ち上がった。
椅子がガタンと倒れて周りのものも慌てて私を見る。
「クラリス、何をしているの?」
氷のような冷たい視線で私は王妃様に見下された。
そこにはもう、女神様はいなくて王妃様の顔に戻っていた。
私は慌てて席に着いた。
でも、心は到底追いついていなかった。
嘘だ。王妃様が女神様だったなんて!
そんな、馬鹿な!
なんかいろいろ失礼なことをしたような気もする。
いやいやいやいや、怖い王妃様にそんな失礼なことはしていなかったはずだ。
私は少し安心した。
「何よその馬鹿顔は、そんなのであなた私の後を継げるとでも思っているの?」
「はい?」
私は女神様の言うことが今度こそ全く理解出来なかった。
その後、王太后様と王妃様が説明してくれたのだが、王太后様が大女神様で王妃様が女神様だそうで、二人して今この世界を治めているのだそうだ。
そして、王太后様も王妃様も転生者で、その前の王太后様のお義母様も、その又、お義母様も転生者でこの世界を守っていたのだとか。
そして、二十年から三十年周期でやってくる転生者の中から次の女神を選んでその座につけるそうなのだ。
「私にはよく判らないことですが、凄いですね」
完全に他人事だった。
「クラリス!」
「はい!」
王妃様の叱責が飛んで私は思わず十センチくらい飛び上った。
「あなた何他人事のように言っているのよ! 次の女神はあなたなのよ」
「えっ?」
私は唖然とした。
慌てて王太后様を見るも王太后様はニコニコ笑っているだけなんだけど……
「いや、そんな無理です」
内気で大人しい私が女神様になれるわけないじゃない!
「何言っているのよ。あなたが女神候補のアニエスを追い落としてエミールの婚約者の座を確保したのよ。責任はあなたが取るしかないじゃない」
「そんな……」
私は冷たく王妃様に言われて絶句したのだ。
私はわらでも掴む思いで王太后様を見た。
「まあ、クラリス。私もいるから徐々にやっていけば慣れるわよ」
王太后様は笑って言ってくれるんだけど、そんなの出来る訳ないじゃない!
「お義母様は甘すぎます。そういう事でこの夏休みはじっくりと女神のやり方を教えてあげるから覚悟しておくのね」
ぎろりと光った王妃様の顔は獲物を睨む肉食動物にしか見えなかった。
いや、絶対に私は無理だから……
「既に宰相にはお妃教育のために、しばらく王宮で預かるとお話はしていますから、では始めましょうか」
私はそう言うと王妃様に手を引かれて立上がらされたのだ。
「もう、本当に落ち着きのないのね。少しくらいお茶しても」
私はそう言ってくれる王太后様の言葉に一縷の希望を見つけたのだ。
「何を言っているのです。そんなことしていたらこの世界が滅んでしまいます。それでなくても性格が女神むきではないんだから、今から叩き直さないと大変なことになります」
私は王妃様に言われるとずんずん王宮の礼拝堂に連れて行かれたのだ。
「まあ、そうね。あまり無理させたら駄目よ」
王太后様はそう言うと手を振ってくれた。
いや、そうじゃ無くて、助けて!
私が女神やるなんて絶対に無理だから
必死に伸ばした手は王妃様には届かなかった。
それから私には悪夢の女神教育が始まってしまったのだった。
おしまい
ここまで読んで頂いてありがとうございました
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これで終わるの?
恋愛なのに!
そうですよね。
エミールとの仲や女神教育については折々閑話等で触れていきたいと思います。
今後とも私の紙書籍や電子書籍共々(10センチ下に表紙絵とリンクあり)よろしくお願いします。