教会暗部の暗躍
俺の名は、ジャック、教会に所属する暗部の一員だ。
教会は今、百年ぶりの聖女が出て、とても盛り上がっていた。
教皇のアズナブールはじめ、司祭達もどこか浮き足立っていた。
久々に王妃が教会から出る可能性があると喜んでいたのだ。
何しろ、毎回聖女が現れると必ず王妃になっているそうなのだ。聖女が王妃になると教会への予算も増えるし寄付金も増える。それに教会の権力も増える。教会にとって悪いことは無かった。
今の王太子には公爵令嬢の婚約者がいるが、我が儘で傲慢なことで有名らしい。王太子も婚約破棄したがっているそうだ。
俺達教会の暗部は王太子と聖女を婚約させるために、まず、公爵家のあら探しをするように教皇から命じられた。
公爵令嬢のあらを探せとのことで、色々聞き込みをするために、王宮に出入りしている商人や、侍女達に噂話をきいて回った。
だが、公爵令嬢は王太后のお気に入りだそうで、なかなか侍女達も口を割らなかった。
現王妃達は王太后を目の上のたんこぶみたいに思っているそうだが、王太后が怖くて中々公爵令嬢にも強く出れないようだし、注意も出来ないみたいだった。
まあ、王太后も年だ。いずれは亡くなるし、そうなれば公爵令嬢も落ちぶれそうだと報告上げたら、俺は教皇に呼ばれた。
「ジャック、貴様、王太后が死ねば公爵令嬢も落ちぶれるはずだとは何だ! あの強突く張りのばばあはいくつまで生きるか判らないではないか! 百歳まで生きたらどうするつもりだ?」
教皇は俺が来るなり怒鳴りだしたのだ。
そんな事言われても人の寿命は俺には判らない。
「それで無くても、今は魔物の数が減って聖女の価値が落ちているのだぞ! 何か使えるネタは無いのか?」
「魔物の数が減っているのならば、魔物の数を増やせば良いのではないですか?」
「何を判りきったことを言っておるのだ。それが出来たらやったおるわ」
俺の提案は教皇が即座に却下してくれたのだが、
「聖遺物を使えば、増やせますが」
「聖遺物?」
「それは何ですか?」
俺が言出すと、教皇と聖女が食いついてきた。
俺が教会に伝わる闇の聖遺物で、魔物を作り出す装置のようなものだと説明した。
2人は俺から説明を聞くと、早速使ってみろと言い出したのだ。
俺は色々実験してから使った方が良いと主張したのだが、実験する時間が無いと教皇等は即座の行動を求めたのだ。
俺は聖遺物がきちんと制御できるかとても不安だったのだが、上層部の命令は絶対だった。
ダンケルと一緒にゴモラのダンジョンの最奥に聖遺物を設置したのだ。
最初は聖遺物はうまくいった。ゴモラのダンジョンから魔物が溢れてゴモラの街を襲ったのだ。
直ちに騎士団が派遣されて王太子と聖女も一緒に出ていった。
「二人きりになれば女の魅力で王太子をものにしますわ」
聖女は高々と教皇に宣言して行ったのだ。
しかしだ。やはり危惧した通りに、聖遺物は俺達にはコントロールできなかった。
止まらなくなったのだ。ダンジョンの中に入っていた暗部が半数魔物によって殺された。
いつの間にか制御部分にも魔物達が溢れかえってしまったのだ。
俺達は命の危険を感じて逃げ出した。
「どうするのだ?」
ダンケルが声高に非難してくれたが、実験してからだというのをさっさと使えと言ったのはそちらだろう。
余程そう言いたかった。
このままでは本当にまずい。下手したらこの辺りは全て魔物に占拠されてしまう。
そう危惧した時だ。
その危機を一撃でなくしてくれたのが、公爵令嬢だった。我々が関与した証拠の聖遺物ごと破壊してくれたのだ。
俺達は取りあえずほっとしたのだ。
でも、このダンジョン征伐でも、長い間一緒にいたにもかかわらず、聖女と王太子は仲良くならなかった。
討伐が終わると王太子は死にもの狂いで帰って行ったのだ。
それもまっしぐらにさっさと帰っていった公爵令嬢の所へだ。
王太子が公爵令嬢を嫌っている?
俺はその前提からしておかしいのではないかと思い出した。
でも、俺の懸念もそこまでだった。
何故か王太子と聖女の仲が急激に進み出したのだ。
今までは聖女を心底嫌っていたように見えた王太子が、聖女と一緒に行動するようになったのだ。
俺は怪しく感じたのだが、聖女も教皇も歓喜していた。
「やはり私の魅力には勝てなかったのですわ」
聖女など高々と勝利宣言をしてくれたのだ。
そして、王太子と一緒にサマーパーティーで公爵令嬢を断罪の上、婚約破棄すると宣言したのだ。
王太子の了解をまだ得ていないというのが怪しいと俺は思ったが、聖女も教皇も断罪後の公爵令嬢をどうするかしか頭になかったみたいだった。
「女神様の命令を聞かずに、悪役令嬢をやらなかった公爵令嬢には天罰を与える必要があるのです」
そう聖女は言うと俺達に命じたのだ。
断罪した後は護送馬車で孤児院に向かわせるので、その途中で襲えと。
「貴方たちの好きにして良いわ。命さえあれば何をしても良いわよ」
「それはありがたいですな」
俺も高笑いをした。
公爵令嬢を好きにしていいなんてめったにないことだった。
俺は抵抗しようとして泣き叫ぶ公爵令嬢の姿を思い描いてほくそ笑んだのだ。
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次はクラリスの危機です。
明日更新予定です。
お楽しみに