王太子の部屋でケーキを食べさせられました
私はその後、お父様に連れられて、王宮に向かった。
あの氷の冷たい王太子の婚約者になるのは嫌だったのに!
また、セバスチャンにケーキが食べられると言われて仕方なしに出てきたのだ。
王宮の立派な応接室には王妃様と不機嫌そうなエミールがいた。
この子なんでいつも不機嫌そうなんだろう?
嫌なのは私よ! と言いたかった。
後で怒られるから黙っていたけれど……
「王妃様。お招き頂きありがとうございます」
「ありがとうございます」
お父様の横で私もカーテシーした。
「ああ、よく来てくれたわ、ロワール公爵。クラリスは今日は転けずによく出来たわね」
王妃様が私の忘れたい話題に触れて笑ってくれたんだけど……
いつもいつも転けている訳はないのだ。
私は少しだけむっとした。
「このたびの婚約の件、受けてもらって、陛下も私もとても喜んでいるのよ」
えっ、お父様、もう受けてしまったの?
私に一生涯家にいて良いって言ったのに!
確か、そういう打診が来たという話だったと思ったのに!
私は驚いてお父様をみると
「我が家にとってこれほど名誉なことはございません」
そう言ってお父様は笑っているんだけど……
そんな、もう決まってしまったなんて!
私は唖然としてしまった。
「そうね。エミール。クラリスにあなたの部屋を見せてあげなさい。私は公爵とまだお話があるから」
「クラリス、粗相をするんじゃないぞ」
私は笑顔の王妃様と心配そうなお父様に見送られて、エミールについて行ったのだ。
でも、エミールは歩くのが速い!
「キャッ」
私はついて行こうとして、足をもつれさせて、盛大に転けてしまったのだ。
「お前は本当に良く転けるんだな」
呆れてエミールが私のところに戻って来てくれて私を起こしてくれた。
あなたがあまりにも速く歩くからでしょ!
私は心の中で文句を言いながら、
「ありがとうございます」
一応エミールにお礼を言ったのだ。
「いや、大したことはない」
不機嫌にエミールはそう言うと、さっさと先に行こうとした。
私が慌てて、ついて行こうとして、その背中に思いっきり顔をぶつけていた。
なんなのよ!
さすがに文句を言おうとしたら、私の前に手が差し出されていた。
「えっ?」
きょとんとしたら
「また、転けるだろう」
そう言って私の手を掴んで歩き出したのだ。
なんなのだ?
少しエミールの顔が赤いように見えるのは気のせいだろうか?
手を引いて歩いてくれる割に歩くスピードが速くて、私は2回ほど転けそうになった。
そのたびにエミールはため息をついてくれるんだけど……
なんなのよ!
こんなスピードで長くは歩けない。
私は心配したが、エミールの部屋はすぐだった。
私はエミールの部屋に入って驚いた。
エミールの部屋が広いと言うのもあったが、壁が一面本棚になっていて、凄まじい量の蔵書があったのだ。
「凄い本の数!」
私は目を見開いた。
「読みたかったら、読んでもいいぞ」
「えっ、本当に良いのですか?」
「ああ」
エミールの頷くのをみて、私は喜んで駆け寄ろうとしたら、
「走るな!」
エミールにきつい口調で注意された。
「えっ?」
私が思わず、ビクッと固まると、
「また、転けたら、困るだろう」
そう言ってエミールの奴はいつの間にか手に想い出の花を握って、私の転けたところを再生してくれたのだ。
それを見て私は真っ赤になった。
「二度と転けないです!」
私がむっとして叫ぶと、
「それはどうかな? さっきも転けていたじゃないか」
そう言われると、私はぐうの音も出なかった。
あんたの歩くのが速すぎたのよ!
心の中で文句を言いながら、仕方なしにゆっくりと歩いて、本棚の前まで行ったのだ。
本棚にはいろんな本が置いてあった。
政治・経済や歴史や地理の本関係が多いように思えた。
「文学の本とかはあまり無いぞ」
傍に来てエミールは教えてくれた。
「そうですね。我が家でもそんな本はほとんど無いし」
私はエミールに頷いた。
私は取りあえず、この国の歴史の本を手に取ったのだ。
「えっ、そんな難しい本を読むのか」
エミールが驚いて私を見た。
「私でもこれくらい読めます!」
私は頬を膨らませて言い放ったのだ。
いくら王子で賢いからって私を馬鹿にしないで! 私は転生しているから20オーバーなのだ。
少しくらい難しい本も読めるわよ!
心の中で叫んでいたのだ。
私は転生者だからこの国の文字はなんでも読めたけれど、それが難しい古語で書かれており、学者でも読むのが難しい本だって事を知りもしなかった。
その本を持って傍の机の上に置いて、その前のソファに座ると私はその本を読み出したのだ。
それを唖然としてエミールが見ていた。
私が夢中で読んでいたら、私の口の前に何かが当たるのを感じた。
「えっ?」
驚いて口を開けると口の中にイチゴが放り込まれたのだ。
「ひひご!」
私はもごもごしながら叫んでいた。
慌てて横を見るとエミールが口の中に入れてくれたのだ。
「何回も呼んだんだが、夢中だったからな」
エミールが笑って言い訳してくれたんだけど。
「この前も美味しそうに食べていただろう。ほら」
私がイチゴを食べ終わると次は休む間もなく、ケーキを切って口に入れだしてくれたんだけど……
私は抵抗する事も出来なかった。
結局ケーキをまるごと一個エミールに食べさせられたのだった……
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