何人もの同情した男性からエスコートの申し出がありましたが、肝心の婚約者はお情けで衣装だけを送ってきたので拒絶しました
「申し訳ありません。クラリス様。私の教育不足です。どんな理由があろうと女性に手を上げるなど言語道断です」
応接に呼ばれて行くと、騎士団長が立ち上って頭を下げてきて、その横にいたフェリスの頭を押さえつけて下げさせたんだけど……
私はそのフェリスの顔を見てぎょっとした。
フェリスの顔は騎士団長に殴られたのか、大きく腫れているんだけど……
「いや、あの、騎士団長。ご子息の顔が凄いことになっていますけれど」
私が少し青ざめて言うと、
「ふんっ、こんなのは騎士団では普通です。お気に召されずに。そもそもどんな理由があれ、か弱いドッチモーア嬢に手を上げたなど言語道断です。騎士の風上にも置けません。本来ならばその場で土下座して謝る必要があったのに、それもしていないとは、許されることではございません」
「申し訳ありませんでした」
フェリスが仏頂面で頭を下げてきた。
うーん、でも、ちらちらと私の横のお兄様を見てくるんだけど。何でだろう?
「お兄様。どうかしたのですか?」
私がお兄様に聞くと、
「いやなんでもない。フェリス君もこう言っているんだし、許してやればいいんじゃ無いか」
お兄様がそう言うんだけど、なんか怪しい。
普通はもっと文句を言うはずなのに、あまりに許すのが早いんじゃないだろうか?
私は不審に思った。
「では、これからまだドッチモーア伯爵家に行って謝らねばなりませんので」
そう言うや、騎士団長はフェリスを引き立てて連れて言った。
そのフェリスの目が何故かお兄様をとても恨めしそうな目で見ていたような気がしたんだけど……
何でだろう?
翌日学園に行くと聖女に治してもらったのかフェリスの顔は元に戻っていてほっとした。
聖女が何か私に言いたそうにしていてそれを必死にフェリスが止めていた。
そんな時だ。
「クラリス嬢。もし良かったら私とパーティーに一緒に行って頂けませんか?」
私はいきなり、留学生のマクシムからパーティーのエスコートの誘いがあったのだ。
「えっ?」
私は驚いた。地味で内気だと王太子からも相手にされなくなった私を誘ってくれる人なんていないと思っていたのだ。
隣国の留学生はとても優しいみたいだった。
「ちょっと、待った。それなら、私がクラリスさんのエスコートをしたい」
何故かアニエスの取り巻きのジャックが言い出したんだけど。
何故に?
「何だ、君は? 君は聖女の取り巻きの一人じゃないか? クラリス嬢をエスコートする振りをしてまたからかうつもりなのか」
マクシムがそう指摘してくれたが、私はその通りだと思った。
「いや、決してそんなことはない。そもそもクラリス嬢は殿下の婚約者ではないか?」
「何を言っているんだ。殿下は婚約者を蔑ろにして聖女に夢中じゃないか? 我が国ではパーティーに婚約者をエスコートしない男など許されない。クラリス嬢が一人で参加されるなら、私がエスコートしたいと思っただけだ」
マクシムの声に私はとても嬉しかった。
「いや、でも、それなら俺も」
「いや俺も」
何か、ジャックだけじゃなくて、他の男の子達も立候補してくれるんだけど……
皆、エミールに相手にされない、私のことを哀れんでくれたみたいだ。
じゃないと地味で内気で面白みがないとエミールに言われる私なんて誘ってくれる訳は無いのだ。
そんなに私は皆に同情されているんだろうか?
「クラリス、その方、パーティーにエスコートするものがいないという話ではないか。何なら俺がエスコートしてやっても良いぞ」
果ては王弟殿下の息子まで、私をエスコートしても良いと言い出してくれたんだけど……
「ふんっ、さすがクラリスさん。公爵家の権力にかこつけて皆からエスコートさせてほしいと言わすなんて凄いわね」
アニエスからはそのように嫌みを言われたけれど。
「何言っているのよ。その大きな胸を使って周りに男達を集めているあなたが言うことじゃないわよ」
それを聞いてフェリシー等がぶち切れて言い合ってくれるのは毎度のことだ。今度はフェリシーも取っ組み合いの喧嘩なんかしてくれなくて私はほっとしたけれど……
テストがあっという間に過ぎて、パーティーの前日になった。
その夜に私は何故か王家の仕立て工房の訪問を受けたのだ。
マダム・キーラは王妃様の直属で多くのドレスを仕立てていた。私も王妃様に言われて作ったこともある。でも、今回は私は王妃様にそのようなものを頼んでもないし、既にドレスは出来ているのだ。
今頃何の用何だろう?
ひょっとして王太后様の件で悪いと思って寄越したんだろうか?
あまり会いたくないと思ったが、会わない訳にも行かなかった。
「お待たせしました」
私はマダム・キーラに会った。
「これはクラリス様。お久しぶりでございます。今回はこのキーラ渾身の作を王太子殿下にご注文賜りまして、このドレスをお持ちしました」
そう言うとキーラは大きく胸の露出した青に銀の刺繍の入ったドレスを見せてくれたのだ。いかにもアニエスが好きそうなドレスだった。
「まあ、少し胸元がお寂しいですが、パットを使えばなんとかなるでしょう」
なんかマダムがむかつくことをすらっと話してくれたが、
「あのう、マダム。お届け先はボラック男爵家ではございませんか?」
私は親切にも一応聞いてあげたのだ。
「いえ、それは私も何度も確認いたしたんですけれど、殿下は一人でパーティー会場に向かわれる婚約者様に同情されたのか、ボラック男爵令嬢様に送られるものよりも数倍高価な衣装をお作りにならたのです」
「マダム。結構ですわ」
私はマダムの言葉に完全に我慢の限度を超えていた。
「はい? 結構とはどういう事ですか?」
マダムは理解できていないみたいだった。
「私、王太子殿下の愛人のついでに衣装を作ってもらうほど落ちぶれてはおりません」
「まあ、クラリス様。このマダム・キーラの衣装を断られるというのですか? 普通は1年以上待っていただくのに、今回は特別に作らせて頂いた王妃様の御用達の私共の店のドレスを受け取らないと言われますの」
何かマダムが変なところで文句を言い出したんだけど。今回私が作ってほしいと頼んだのではない。
何故、お情けでエミールから衣装を受け取らないといけないのだ!
「もう結構です。代金は王太子殿下から受け取って下さい。私は二度と殿下からの衣装なんて受け取りませんから」
私は言い切ったのだ。
なんで、アニエスのついでに作ってもらった衣装なんて受け取らないといけないのだ。エミールも人を馬鹿にするにもほどがある!
私はセバスチャンに命じて騒ぐキーラにお引き取り願ったのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ご免なさい。明日こそパーティーの開始です。
ついに山場です。
お楽しみに!