聖女から友人を守るために王太后様に頼みました
お父様とお兄様にお願いしたのに、エミールとの婚約破棄はうまくいかなかった。
我が家の没落がかかっているのに、何故かお父様もお兄様も後ろ向きだ。
このまま婚約破棄されて断罪されたら大変なことになるのに!
なんでも、信じられないことに、殿下からも婚約破棄するつもりは絶対に無いと言われているみたいだ。意味がわからない!
ゲームでは婚約破棄断罪するのが普通だから、絶対に断罪したいって事なんだろうか?
普通ならば、私がこれだけ頼めばお兄様がすぐに動いてくれるのに、お兄様はとても歯切れが悪かった。
何か変だ! お兄様はエミールに弱みか何かを握られているんだと思う。
でないと絶対におかしい。
サマーパーティーまであと少しだ。
私はアニエスを虐めたことは無いし、どちらかというと虐められている方だ。
今日も、
「クラリスさんは私に比べたら地味で内気で面白みも何にも無いから一緒にいてもつまらないと王太子殿下もおっしゃっていらっしゃいましたわ。いい加減に王太子殿下を解放してあげれば良いのに」
と面と向かって言われてしまったのだ。
私はいつでも婚約破棄して良いと思っているのに!
そんな風に言われる筋合いは無いわよ!
私はむっとした。
でも、アニエスはそれをフェリシーの前で言ってくれたのだ。これはわざとか?
友人も断罪に巻き込もうとしているのだろうか?
フェリシーの前でそんな事言ったら、フェリシーが切れるのに違いないのに!
「ちょっと、そこの淫乱聖女。あんたこそ、れっきとした婚約者がいる殿下に近付くのを止めなさいよ。貴族の皆が呆れているわよ」
「何ですって! 誰が淫乱なのよ」
「淫乱でしょ。婚約者のいる殿下に近付くことがまず第一の淫乱聖女よ。それにそのいやらしい胸を強調するの止めなさいよ。第一ボタンが外れているわよ。そんな格好していて、淫乱以外の何があるの? こんな風に教育している保護者の顔が見たいわ」
フェリシーは本当に怖いもの知らずだ。
「あなた、聖女様のアニエス様になんてことを言うのよ!」
「そうよ。聖女様に対してそんな口をきいて良いと思っているの?」
取り巻きのバルバラとクロエが言い返してきたが、
「ああら、学園は誰でも平等じゃ無いの? そうで無かったら、私は一応伯爵家の令嬢なんですけれど……別に聖女だろうが、子爵家だろうが何か私にある訳?」
こういうフェリシーは最強だった。
「ぐぐぐ!」
「覚えていなさいよ!」
取り巻き達は慌てて逃げていった。
子爵家の令嬢達が何かフェリシーに言える訳はないのだ。
でも、逃げていくあのアニエスの怒りの目は恐ろしかった。
私を断罪する時に、絶対にフェリシーも巻き込むつもりだ。
聖女をフェリシーが虐めたとかなんとか言って断罪するつもりだと思う。
私本人が断罪されるのはまだ、良いけれど、友達を巻き込む訳にはいかない。
私は、王太后様には学園でのことを毎月必ず報告するように言われていた。仕方が無いからお手紙でそれとなく匂わせたのだ。エミールがフェリシーを断罪すると言ってきたら助けてほしいとお願いしたのだ。
その件で、王太后様が激怒したみたいで、結構王宮は大変なことになったみたいだ。
何故かエミールからでは無くて、王妃様から激怒した手紙が私宛に送られてきたのだ。
『エミールに近付く虫を追い払うのは本来あなたの役割でしょう。それをできないからと言ってお義母様に言うなんて、未来の王妃失格よ』とそれはそれはきつい言葉で叱責が書かれていた。
でも、ゲーム上では私はサマーパーティーで断罪されるのだ。アニエスを追い払おうと色々画策したら、全て虐めていたことにされるんだから、出来る訳は無いじゃない!
それに私は婚約者を降りると言っているのだ。
元々エミールの婚約者にもなりたくなかった。なるように言い出したのは王家の方だ。
さすがの温厚な私もこの手紙には切れたのだ。
『元々、この婚約の件は王家からのお話だったと思います。本来王太子殿下が私を鑑みず、他の女にうつつを抜かすのは王妃様が言われるには全ての責任は私にあるとのことです。未来の王妃失格なのだそうですから、私は今回の責任を取って王太子殿下の婚約者の地位を辞退させて頂きます。ただ、友人達は私を守ろうとしてくれただけですので、もし王太子殿下が罪に問おうとした時は、何卒、王太后様のお力でお助け下さい』
そう書くと私は王妃様からの手紙をそのまま同封して王太后様に送ったのだ。
王妃様の手紙に切れていなかったと言えば嘘になる。
後は野となれ山となれだ!
後が怖くないかと言えば怖いけれど、どのみち、私は婚約破棄される運命なのだ。
別に関係は無いはずだ!
そう思ったらもう怖いものなどなかった。
その翌日のことだ。今度は王妃様からとても丁寧な詫び状が届いたのだ。
これはこれで私はぎょっとした。
『私が怒ったのが悪かった。少し虫の居所が悪かっただけで、どうか許してほしい』
と言う内容が、延々と数ページにわたって書かれていたんだけど……
絶対に王太后様が激怒されたのだ。
今はおそらく王妃様は針の筵の上だろう。
頼むから息子の婚約者はそのまま続けてほしいと延々と書かれていたんだけど……
でも、パーティーで婚約破棄される事になると思うと出来たらさっさと婚約破棄してほしいんだけど。
王太后様からは孫がふがいなくて申し訳ないと詫びが書かれていて、もし、孫とうまくいかなければ自分の親戚のゴンドワナ王国の王子を紹介するからそれで許してほしいと書かれていたんだけど……
うーん。まあ、パーティーで婚約破棄されるのは確実だと思う。
でも、最悪の時は王太后様に泣き込もうと私は心に決めたのだ。
着々と婚約破棄に向けて画策する聖女。
クラリスは最後のカードを切りました。
ついに明日はサマーパーティーの開始です。
お楽しみに!








