怒り狂った親友の前に聖女と王太子は礼儀作法の先生に呼び出されて説教されることになりました
私はそのまま、食堂を飛び出したのだ。
もう、絶対にエミールは許せなかった。
そのまま、私は走っていたら、女の人にぶつかってしまった。
「すみません」
私が謝ると、
「クラリスさん」
それは生徒会のエマ・マクレガー侯爵令嬢だった。
「エマさん!」
私はその大きな胸の中で大声で泣いてしまったのだ。
エマさんは私の話を聞いてくれた。
アニエス等にゴモラのスタンピードを起こしたのは私ではないかと噂されたこと。
そもそも今回討伐に出向いたのはエミールが心配だったから無理して行ったのに、そのエミールがアニエスの味方をしたこと。切れた私がその場から立ち去ろうとしたら転けてしまって、エミールを含めて皆に笑われてしまったこと。
私はおいおい泣きながらエマに話したのだ。
「クラリスちゃんは何も悪くないから」
そう言いながらエマは私の話を聞いてくれたのだ。
私は生徒会の部屋で五時間目の時間をサボってエマさんに話を聞いてもらった。
「それは全部、殿下が悪いから」
はっきりとエマさんは言いきってくれた。
「クラリスちゃんは殿下を心配して色々やったのに、その殿下がクラリスちゃんの味方をせずに聖女と仲良くしているなんて許されないわ」
エマさんはエミールにも怒ってくれた。
「聖女を好きになった訳では無いから許してほしいとか前もって言って来たんですけど、そんなの許されないですよね」
「当然よ。そもそも殿下はあなたの婚約者なんだからあなた以外の女性と親しくなるなんて皆の規範となる王族としても許されないわ。私からははっきりと殿下にはお話ししておきます」
エマさんは頼もしく言ってくれた。
「殿下には婚約破棄にはいつでも応じますからとはっきりと言っておいてくださいね」
私はエマさんにはっきりと言ったのだ。
エミールがゲームの強制力でアニエスが好きになったのなら仕方が無い。
でも、それでロワール公爵家が断罪されて没落するのは嫌だ。それならさっさとエミールとは縁を切りたい。
私ははっきりとエマさんに言い切ったのだ。
「判ったわ。私から殿下にははっきりと言っておくから」
私はエマさんに笑顔で生徒会室から送り出された。
「クラリス。大丈夫だったの?」
5時間目が終わって6時間目の授業の前に私がクラスに返って来ると心配したフェリシーが声をかけてきてくれた。
「大丈夫だから」
「ああら、授業をサボった公爵令嬢様じゃない。いいご身分ね」
私が折角フェリシーに心配しなくて大丈夫だと伝えたのにアニエスがチャチャをいれてくれた。
「ちょと、そこの淫乱聖女、かわいそうなクラリスに何を言うのよ」
それに対して完全に切れたフェリシーがアニエスに突っかかってくれたのだ。
「ちょっとあなた、聖女様に何て事を言うのよ」
「淫乱聖女って言って良いことと悪いことがあるでしょ」
「事実じゃない!
婚約者のいる殿下にクラリスが胸が無いことを知っていながら、そのでか過ぎる胸を押しつけて惑わすって淫乱以外の何だというのよ」
怒り狂ったフェリシーはアニエスの取り巻き令嬢達をものともしなかった。
一人で皆を睥睨してくれるんだけど……
「貴方たち、何をしているのですか? もう授業は始まっているのですよ!」
そこにロッテンマイエル先生が現れた。
「先生。フェリシーさんが、アニエス様を淫乱聖女って言うんですけど」
言わなくても良いのに、バーバラがロッテンマイエル先生に告げ口してくれた。
「フェリシーさん。それは本当ですか?」
ぎろりとロッテンマイエル先生が眼鏡をかけ直してフェリシーを睨んだ。
「だってアニエスさんはクラリスさんという立派な婚約者がいるにもかかわらず、クラリスさんに胸が無いのを良いことにその自分の大きすぎる胸を殿下に押しつけてしなだれかかったんですよ。なおかつ、何回も『エミール様呼びをしていました』」
フェリシーは私の胸を見て胸が無い胸が無いって少し煩いわよ!
思わず私は叫びそうになった。
もっとも指摘されたアニエスこそ驚いたはずだ。
「いえ、そんな、先生。フェリシーさんは自分が伯爵令嬢だからって私がしてもいないことを言い張られるんです」
両手を組んでうるうるポーズをロッテンマイエル先生の前でやるんだけど、それが通用しないのはいい加減に理解しろと私は叫びたかった。そんな小手先が通用するのは頭かお花畑のエミールくらいだ。
「アニエスさん。あなたはフェリシーさんが嘘をついているというのですね」
ロッテンマイエルはそう言うとフェリシーを見た。
「先生。私が言うことが本当かどうかは皆に聞いてもらったら良いと思います」
自信満々フェリシーが言い切った。
「皆さん。正直に答えなさい。アニエスさんがそんな破廉恥な行いをしていたというのは本当ですか?」
アニエスが全員を見渡している。
誰も手を上げようとしなかった。
私もさすがに自分のことをよく言う訳にはいかなかった。
「先生。アニエスさんはそんなことはしていらっしゃいません」
バーバラが言い出した。
「そうです。先生。私達は見ていません」
「ふんっ、貴方たちは嘘を言う訳ね」
はっきりとフェリシーが嘘だと断言してくれた。
「な、何を言うの!」
「私達が嘘つきだと言うの?」
「神様は全部お見通しよ。ああら、教会の聖女様が嘘をついていらっしゃいますわね」
フェリシーは無敵だった。
「な、何ですって」
アニエスが叫んだ時だ。
「先生。フェリシーさんの言うことは正しいです」
ゴンドワナ王国の留学生のマクシム・ナーランドが手を上げてくれたのだ。
「まあ、留学生のマクシムさんはフェリシーさんの肩を持たれますの」
アニエスがじろりと睨んだ。
「何を言っているんだ。私は事実しか言っていない」
はっきりとマクシムが断言してくれた。
「私達もしっかり見ました」
「私もです」
それにせきを切ったようにルイーズらが手を上げてくれたのだ。
「フェリクスさんもジャックさんもはっきりその事を見ていらっしゃいましたよね」
フェリシーが騎士団長の息子と側近の弟に念押ししたのだ。
「いや、あの、その」
「神に誓って本当のことを言いなさい」
その時フェリシーが命じたのだ。
「はい」
「その通りです」
騎士候補の二人は嘘は言えなかったみたいだ。
「ちょっと二人とも」
「バーバラさん。クロエさん。貴方たちは私に嘘をついたのですか」
「いえ、その……」
「食堂には歴史のヘロドトス先生もいらっしゃいました。先生はアニエスさんの行動に眉をひそめていらっしゃいました。何なら確認頂いても良いです」
フェリシーの言葉に二人はそれ以上何も話せなくなった。
それから延々ロッテンマイエルのお説教が始まったのだ。
私は良い気味だと溜飲を下げたのだ。
更にその後の放課後、アニエスとエミールは呼び出されて延々怒られる羽目になったそうだった。
ふんっ、私が泣いた分怒られれば良いのよ!
良い気味だと思ったのだ。