教室で勲章もらって皆に自慢していた聖女は担任の一言でプライドをズタズタにされてしまいました
私は翌日エミールのエスコートで無くてお兄様と学園に行ったのだ。
エミールは色々忙しいとかで、しばらく迎えに行けない旨の言い訳が延々書かれた手紙をもらった。そうエミールからの初めての手紙だ。遠征中の手紙の件はエミールの言葉を信じるならばエミールは私の手紙を本当に受け取っていなかったみたいだ。
教会の面々か聖女の協力者が邪魔した可能性はある。
エミールの送った手紙も私も受けとっていなかったし、これはゆゆしきことだと思う。あの手紙は私なりに必死に書いたのだ。犯人を見つけたら絶対に文句を言ってやらないと腹の虫が収まらない。
今回もエミールが忙しいのは何でも陛下と王妃様からややこしいことを頼まれたみたいで、聖女にうつつを抜かしている訳ではないので、許してほしいとそれはそれは丁寧な書面が来た。
昔の冷たい能面のエミールからは想像も出来ない事なんだけど、私は却って不審に思ったのだ。
私にそこまで断るということは絶対に私が又切れることを頼まれたに違いない。
案の定、朝は聖女をエミールが送ってきた。
私は切れかけたが、遠くからエミールが必死に謝っているのが見えたのだ。
私は納得いかなかったが、我慢することにした。
その学園では聖女が陛下から勲章をもらったことは大々的に知られていたが、私が王国の名を呈した勲章を陛下からもらったことはあまり知られていなかった。
「聞かれました? アニエス様が国王陛下から直々に勲章を受け取られたそうよ」
「何でも王太子殿下のお名前と同じ名の勲章だとか」
「まあ、そうなのよ。殿下からどうしても受け取ってほしいと頼まれてしまったの」
アニエスが何か話を作っているんだけど。
「まあ、本当ですのアニエス様」
「それは素晴らしいことではないですか」
「それだけアニエス様は活躍されたという事ですよね」
取り巻き達とアニエスの言葉を聞いていたら思わず吹き出しそうになってしまった。
「今朝も殿下と一緒に通学してこられましたし」
「殿下もアニエス様の事を大切にしていらっしゃっているということですよね」
「そんなの当たり前じゃ無い。何しろアニエス様は百年ぶりの聖女なのだから」
取り巻き達が何か言っていた。
「やはり今回の討伐ではアニエス様がとても活躍されたという事よね」
「やっぱりおかしいと思ったのよ」
「クラリスさんはいなかったのはほんの数日ですし、ほとんど現場にもいらっしゃらなかったそうよ」
「どちらが活躍されたかは勲章によって一目瞭然ですわ」
アニエスの周りは大盛り上がりしているみたいだった。
「いいのクラリス? あんな風に言われているけれど」
フェリシーが私を見て言った。
「まあ、いいんじゃないのかな。言わしておけば」
私は適当に流した。新設されたエミール勲章がどういうものかは判らないけれど、聖女のおねだりで仕方なく出来たものなのだ。ブルゾン勲章とは比べものにならない。私は勲章なんて別に要らなかったのだが、我が家では初代様以来の勲章授与だそうで、お父様がとても喜んでくれたのだ。
「さすが余裕ね。名門公爵家のご令嬢は違うわね」
「まあ、聖女様もほとんど活躍できていないから、大変なのだと思うわ」
騎士団からも文句が多い聖女よりも何も言わずに、ダンジョン諸共破壊してくれた私の方が余程役に立ったと騎士団長からは散々お礼を言われたのだ。聖女に対する風当たりもきつくなっているのだろう。
そこにロッテンマイエル先生が入ってきた。
「アニエスさん達、直ちに席に着きなさい」
入ってくるなり、ロッテンマイエル先生はアニエス達を注意した。
「はい」
子爵令嬢達は慌てて皆、席に着いた。
「皆さんに、お知らせすることがあります。なんとこのクラスの生徒が陛下に表彰されて勲章を授与されました。これは学園始まって以来のことです。私はクラス担任をして三十年、こんな誇らしいことは未だかつてありません」
ロッテンマイエル先生はとても興奮していた。
こんなに機嫌の良いロッテンマイエル先生は初めて見た。
子爵令嬢達はみんなアニエスを見ていた。
「その勲章を授与されたのはクラリス・ロワールさんです」
しかし、先生が私を指してくれたのだ。
「「「えっ」」」
子爵令嬢達は固まってしまった。
アニエスが唇を噛んでいるのが見えた。
「先生。聖女のアニエス様ではないのですか?」
バルバラが聞いていた。
「アニエスさん。ああ、討伐に力を貸してくれた教会にも勲章が入り用だろうと陛下が新設された勲章ですね」
あっさりとロッテンマイエルはその話を流してくれたのだ。
子爵令嬢達は唖然としてアニエスとロッテンマイエル先生を見比べたのだ。
そして不機嫌そうなアニエスを見て慌てて口をつぐんだ。
「それも素晴らしいですが、やはりこの国の名を呈したブルゾン王国勲章はこの国の最高の栄誉です。100年前に聖女様が授与されて以来の表彰なのです。それだけ今回の討伐におけるクラリスさんの活躍は素晴らしかったということです。おめでとう。クラリスさん。私はあなたの担任としてこれほど嬉しいことはありません」
私はロッテンマイエルにここまで褒められたのは初めてだった。思わず雪でも降ってくるのでは無いかと空を見てしまった。
「いえ、これも、日頃から私達を指導して頂いている先生方のご指導の賜です」
よく言えた、私、偉い! 私は先生をヨイショした自分を自画自賛したのだ。
「そうですか。クラリスさんはそこまで私達教師の事を考えてくれていたのですね。あなたが勲章を授与された理由がよく判りました」
なんかロッテンマイエル先生は感動して、目に涙を浮かべてくれているんだけど……私は唖然としてしまった。今まで散々悪口を言っていて少しは悪いことをしたと反省したのだ。
そんな私とロッテンマイエル先生を怒りの籠もった目で睨み付けているアニエスに私は気付かなかったのだ。