謝りに来た婚約者を避けようとして、階段から転がり落ちてしまいました
それから一週間が経った。
私が行く前は皆の話題はエミールと聖女が討伐で頑張っているという噂話だったが、私が帰ってきてからは、私が今回のゴモラのスタンピードを終わらせたと話題に変わった。
私が行く前はエミールと聖女が頑張っているという感じだったのが、あっという間に私一色になってしまったのだ。
それに対してバルバラ等アニエスの取り巻き達は色々と言っているみたいだが、事実私が全部破壊して終わらせてきたのだ。
聖女とエミールは確かに二人で現場にいたが、私がとても心配していたにもかかわらず、前線にも出ておらず、二人してイチャイチャしていただけみたいだったし。聖女は両師団長にも白い目で見られていたし、我が儘言って問題を起こしていただけみたいな感じだった。
私はそんな二人をおいてさっさと帰ってきたけれど、やっぱりゲーム補正で仲良くなったんだろう。後は二人でイチャイチャすればいいんだわ!
なんか思い出しただけでもむかついてきた。
その夜はムカムカしていたので、夜半まで寝れなかったのだ。
「殿下! お待ちください」
「セドリック、通してくれ。やっと帰ってきたんだ。俺はクラリスにすぐに会いたい」
「しかし、クラリスはまだ寝ておりますから」
「そこをなんとか」
遠くで争う声がした。この声はエミールだ。
でも、何しに来たんだろう?
エミールは現場でアニエスと仲良くしていたはずだ。
「お嬢様、お目覚めになられましたか」
そこにデジレが入ってきた。
「どうしたの?」
「それが殿下が早朝にもかかわらず、お嬢様にお会いしたいと来られていて」
困った顔でデジレが教えてくれた。
「ふーん。私は会いたくないわ」
私がぼそりと言った。
「えっ、殿下は戦場から馬で急いで帰ってこられたようですが」
私がそんなリアクションをするとは思ってもいなかったのだろう。デジレは驚いて私を見直した。
「会いたくないものは会いたくないわ」
私が眉をつり上げて断りを入れると
「宜しいのですか? 行く前は刺繍入りのハンカチをお渡しになられていたでは無いですか」
デジレが再度私に聞いてきた。
「あれはあなたが持ってくるからでしょ」
私はデジレを睨み付けたけれど、
「だって殿下をお見送りされた時はとても仲よさそうだったでは無いですか」
「行く前はね」
私が言い切ると
「現地では聖女様と殿下はラブラブだとの噂がございましたが、クラリス様も何か見られたのですか」
「そんな噂があったのね」
私はぎろりとデジレを睨んだ。
「いえ、単なる噂だと思ったのです。だってこちらではどう見ても殿下はクラリス様一筋でしたし」
デジレは説明してくれた。
「現地では二人して抱き合っていたわ」
私が見てきたことを言うと
「まあ、信じられませんわ。その旨、セドリック様に直ちにお伝えして参ります」
怒ってデジレが出ていった。
後はお兄様に任せておけば叩き出してくれるだろう。
私はお兄様に期待したんだけど、うまくいかなかったようだ。
「クラリス、違うんだ。それは誤解だ」
大声でエミールの言い訳する声がするんだけど、この声の大きさは階段みたいだった。
「で、殿下、この先は二階です」
「そうです。そんな汚らしい格好でクラリスに近付かないでください」
今度はお父様の声までしているんだけど……
「しかし、俺は誤解を受けたままでは王宮には帰れない」
「殿下困ります」
「クラリス、頼む、俺の言い分も聞いてくれ」
大声が響いてくるんだけど。
「いかがされますか?」
デジレが心配して私を見てくれた。
もう、仕方が無い。
私は目をつり上げて外に出た。
「殿下、なんなのですか?」
私がエミールを睨み付けた。確かにエミールは薄汚れていて、本当に風呂にも入らずに、馬をかっ飛ばしてきたらしい。
押さえようとしたきれいな格好のお父様とお兄様が、なんか悪役みたいだ。
でも、私はだまされない!
そう思うと唇を噛んだ。
「クラリス。あれは誤解だ。騎士団長と魔術師団長が聖女の相手は俺しか出来ないから俺にやって欲しいと頼んできてだな」
「それとアニエスさんと抱き合っていたのは別問題でしょう」
私が怒り狂って言うと、
「殿下、そんなに事をしたのですか」
「すぐにこの館から出て行ってください」
お父様とお兄様が激高しているんだけど……
「違う。あれは俺がクラリスの所に行こうとしたのをアニエスが止めてくれてだな」
「アニエスさんも呼び捨てなのですね」
私は更に激高した。
「違う。違うぞクラリス。騎士団は男社会で基本は呼び捨てでだな、俺はアニエスも男としてしか見ていない! 俺にとって女はクラリスだけだ!」
エミールが必死に私の顔を見て言ってくれたのだ。
私は思わずその姿に癒やされそうになった。
でも次の瞬間二人して抱き合っていた姿が目に浮かんだのだ。
「ふんっ。二人して抱き合っていたくせに許せない!」
私はそう言うと階段の所にいたエミールを無視して降りようとしたのだ。
そして、物の、見事に階段を踏み外していた。
「危ない、クラリス!」
そう叫んで落ちる私をエミールは抱きしめてくれたのだ。
しかし、私の勢いはそのままで私達は抱き合ったまま階段を転がり落ちたのだ。
落ちてしまった二人の運命は
続きは今夜です
4作品出したカクヨムコン
長編3作品短編1作品全て中間選考通りました
ありがとうございます