婚約者と聖女がイチャイチャするのを無視して、魔術実技の先生に連れて帰ってもらいました
えっ!
私は爆煙の晴れた私の攻撃した跡地を、口を開けて見ていた。
すげーーーー
令嬢らしくない心の声が漏れていた。
心の中でどこか他人事だ。
皆も唖然としている。
あまりのことに腰を抜かしている人もいるんだけど……
そこには標高千メートル以上の赤茶けたはげ山とサバンナが広がっていたはずだった。
それと魔物が一杯……
周りには枯れかけてはいたけれど広大に広がっていた森もあったはずで……
その中心にはダンジョンがあって……スタンピードの前には一日何百人もの冒険者が毎日冒険していた巨大ダンジョンがそこに存在していたはずだ。
それがきれいさっぱりなくなっていた。
代わりにそこには巨大なクレーターが存在していた。
エミールがアニエスとイチャイチャしていて切れていたのに怒り狂っていたというのもあるけれど、リミッター無くして攻撃したらこんな風になるんだ!
私は自分がやったということ自体が信じられなかったけれど……
「す、凄いな」
「本当に!」
「まさか一撃で最奥にある本来守られているダンジョンのコアまで破壊して頂けるとは」
最後の魔術師団長の言葉は呆れを通り越していたと思う。
「良かった……王宮でクラリスに全力で魔術の練習させなくて……」
私の横では感涙に涙するカンダベル先生がいたんだけど。
どういう意味よ!
私がじろりと先生を睨み付けると、
「いやあ、王都が壊滅しなくて良かった」
先生が笑顔で笑ってくれたんだけど、私はその意味がわからないんだけど!
本来は今回の件で良くやったって褒めるところでは無いの?
心配はその後でしなさいよ!
私の顔にそう書かれていたみたいだ。
「いや、良くやったよ、クラリスさんは! 本当に!」
取って付けたように言うな!
と私は叫びたかった。
「本当に」
「凄いな」
回りの皆も一斉に褒めてくれた。でも、どこかおなざりだ。
「いやあ、本当に良かったよ。人が誰もいないところで!」
本当にカンダベル先生の声には実感が籠っているんだけど……
失礼ね!
幾ら私でも王都を壊滅させたりしないわよ!
私はむっとした。
でも、何で私にはここまで魔力があるんだろう。本来悪役令嬢のクラリスにはここまで魔力は無かったはずだ。
ひょっとして私を悪役令嬢にしたから、女神様がお詫びにくれたんだろうか?
それとも、転生者は皆魔力がチートになるとか?
そうか、いい加減な女神様が適当にしたらここまで魔力量が多くなってしまったとか……
絶対に最後が一番怪しい。女神様はいい加減そうだったし。私は女神様が聞いたら怒りそうな事を平気で考えていた。
まあ、地味で物静かな私を悪役令嬢に転生させたことからしておかしいんだし、私は気にしないことにした。
まあ、どちらにしろここまで魔力量があっても、制御が出来ないわたしには全く使い道が無いんだけ……
「どちらにしろ、これで終わったな」
ほっとしたように魔術騎士団長が言ってくれた。
「後の魔物の掃討は騎士団に任せても良かろう」
魔術師団長が皆を見渡した。
「おい、先程の爆発はなんだ!」
そこに騎士団長等が駆けて来て、私の開けた巨大クレーターを見て、唖然とするという、一騒動があった。後を見た騎士達皆が化け物を見るような目で私を見るのは止めてほしかった。
そんな時だ。
馬車が止まって
「クラリス! 大丈夫か!」
エミールの大声が聞こえた。
喜んでそちらを振り返ると、馬車から飛び降りようとするエミールと
「エミール様、危険です」
止めようとするアニエスとで何故か絡み合って、二人して抱き合って地面に落ちていた。
私がそれを見て、切れたのを見て、
「いや、クラリス、これは違うぞ」
言い訳するエミールと
「まあ、殿下、私を白昼に抱いて頂けるなんて何て積極的なんでしょう」
アニエスの声を聞いて私は完全に切れていた。
その瞬間、何故か皆一斉に私とエミールの間からいなくなったんだけど、何で?
「カンタベル先生。疲れたので、家に帰りたいです」
私から必死に遠ざかろうとしている先生を捕まえて言うと、
「クラリスさん、落ち着いて、深呼吸して」
何故か強引に深呼吸させられたんだけど、解せん!
「魔術師団長宜しいですか?」
「いや、ここまでしていただければもう十分だろう。クラリス様、本当に助かりました」
魔術師団長が私に礼を頭を下げてくれた。
「最初からクラリス様に来て頂ければここまで時間もかかりませんでしたな」
騎士団長にまでお礼を言われて悪い気はしなかった。
「済みません。破壊することしか出来なくて」
私が謝ると、
「いやいや、あそこまで増えていた魔物達を倒して頂けて、なおかつ、最奥にあってその原因のダンジョンのコアまで破壊して頂けてお礼の言い様もありません」
「今回何故ここまで魔物が増えたか、早急に調べる必要はありますが、それは魔術師団の仕事です。カンダベル。クラリス様を必ず公爵邸までお連れするのだぞ」
「お任せ下さい。ではクラリスさん、帰ろうか」
そう言ってカンタベル先生は手を差し出してくれた。
「では皆様。ごきげんよう」
私は優雅に笑うとその手を取ったのだ。
「ちょっと、クラリス! 待ってく……」
エミールの声が聞こえたが、カンダベル先生は無視して転移してくれたのだ。