婚約者といい仲になったのに、その婚約者が聖女と一緒に魔物退治に行くことになってしまいました
私を見て、悲鳴を上げて逃げ出したオーガを、私は唖然として見送ることしか出来なかった。
「クラリス、大丈夫か?」
大声とともに私の所にエミールが飛んで来た。そして、私を抱きしめてくれたんだけど……
私はビシッとエミールに抱きついたのだ。
「エミール怖かったよ」
「もう大丈夫だから」
更にきつくエミールが抱きしめてくれた。
私はほっとした。
「どこも怪我は無いか?」
「ええ」
私は放心していた。
今頃になって膝が震えてきた。
オーガ相手ににらめっこして勝ったというか、何故オーガが逃げていったか全然判らなかったけれど……
「取りあえず保健室に行こう」
そのままエミールは私をお姫様抱っこして保健室に連れて行かれた。いつもは恥ずかしいとか気にするんだけど、オーガに襲われそうになったので、さすがの私も恐怖心でそれどころでなかった。分厚いエミールの胸板に顔を埋めていた。
それをアニエスが激怒した瞳で睨んでいたことなど私は知らなかった。
保健室のベッドに下ろされて私はほっとした。
エミールが離れようとしたんだけど、私がエミールの服を掴んでいたので、エミールは離れられなかった。
「もう少しだけこうしていたい」
「いくらでもこうしておいてやるよ」
エミールは私を強く抱きしめてくれたのだ。
その後は慌てた、騎士団が飛んで来て、何故か又お父様まで飛んで来た。
そのお父様に、
「ええい! 殿下といえどもクラリスから離れてください」
強引に離されるまでは私はエミールにくっついていたのだ。
騎士団からは一応事情徴収された。
「ここで、負けたら襲われると思ったから、オーガをにらみ返したんです」
私が言うと、
「おおおお、可哀相なクラリス。魔物生物研究所の職員は我が娘を危険にさらしたことで処刑だな」
お父様が過激な発言している。それに私の横にいるお兄様とエミールも頷いているんだけど。
一緒にいる学園長の顔色が悪くなった。
「そうしたら、何故かオーガは逃げだしたんですけれど」
「おおおお、オーガもクラリスのあまりのかわいさに逃げ出したのだな」
お父様が余計な事を言い出してくれたんだけど。お兄様とエミールもお父様の言葉に頷いているんだけど……もうやめてほしい。騎士達は呆れてお父様達を見ていたし……
「おそらく、クラリスさんはオーガを威圧していたんだと思う。オーガは魔力を感じるから、あまりにも大きなクラリスさんの魔力に恐れを感じて逃げ出したんだと思う」
カンダベル先生が理由を説明してくれた。
そうなんだ。私の睨み付けた顔があまりに恐ろしかったから逃げ出したのかと思ったから、違って良かった。
私はほっとした。
「しかし、学園長。魔物生物研究所から魔物が逃げ出すなどどういう管理体制をしていらっしゃったんですか?」
お父様が学園長をぎろりと睨み付けていた。
「も、申し訳ありません。入り口には騎士が一人で警備していたのですが、後ろから襲われて昏倒しておりまして」
「誰かが故意にしたということですな」
「それは問題ですな」
一同深刻な面持ちで頷いた。
あの後、オーガは逃げ出した魔物生物研究所に戻ったところを駆けつけた騎士団によって即座に討伐されたそうだ。幸いなことに被害はほとんど出ていなかったのは奇跡に近いことだった。
結局誰が逃がしたかは判らなかった。
その日は学園は急遽休校になって、全生徒は帰らされたのだった。
結局騎士団の捜査が入ったけれど、犯人とその目的はわからずじまいだった。
そして、予定されていた魔物討伐訓練は今回の事件で、危険性が再度議論されて、犯人が捕まっていないのもあって、中止になってしまった。魔物の育成も学園では中止になってしまったのだ。
それには騎士見習達ががっかりしていた。
でも、その後だ。
エミールが更に過保護になったのだ。
毎朝夜の送り迎えは当たり前、お昼休みの食事も一緒、果ては、
「クラリス! 無事だったか?」
エミールが更に休み時間毎に教室に顔を出すようになった。
そして、教室に入ってきて、私のところまでわざわざやって来るんだけど……
そんなに二年生は暇なのか?
私が思うほどに……
「殿下。わざわざ私に会いに来て頂けたんですの?」
最初こそ、アニエスはヒロインモードで反応していたんだけど、エミールはそのアニエスを全く無視して、一目散に私の所に来るのだ。一人で話しかけていたアニエスが馬鹿に見えたので、それ以来アニエスもやらなくなった。
もう最近ではアニエスもエミールに反応するのを諦めて、見るなり嫌そうな顔しかしないし、アニエスの取り巻き達はどう反応してよいかも判らないみたいだった。
その上、私はエミールによって、守護魔術のお守りとして銀色の髪飾りや、青い宝石を散りばめた腕輪とか、一杯つけられた。
私は日頃は宝飾品なんてほとんど着けていなかったのに。なんかとても重いのだ。
「お前のことが心配だから」
とエミールに言われたら無視する訳にはいかないから着けているんだけど……
「本当にクラリスは殿下に溺愛されているわね」
フェリシーが生暖かい視線で私を見てくれた。
「うーん、なんか幼なじみのドジ女をほっておくと、どうにかなりそうで可哀相だから構っているっていう感じじゃないかな」
私がそう話すと、
「何言っているのよ。あなたのもらったお守りって全部殿下の色を纏ったお守りじゃない。去年、殿下は寄ってくる女達にめちゃくちゃ冷たかったのに、婚約者が入学してきた途端に変わったって騒ぎになっているわよ。氷の殿下が壊れたとか上級生の間では有名よ」
フェリシーに呆れて言われたんだけど……
「それに殿下がこちらに来る度に、周りの男に対しての牽制も半端ないわよ」
フェリシーが指摘してくれたけれど……
「ほっておいてもこんなドジで地味な女に声かけてくる男なんていないわよ。現実的にいないし」
私が言うと
「何言っているのよ。クラリス、あなたがその地味眼鏡を何故しているか判らないけれど、眼鏡取ればとても美人じゃない。殿下が心配するのも当然よ。今は殿下を恐れて、誰も声をかけて来ないだけよ」
フェリシーが言ってくれるんだけど……
うーん、でも私は悪役令嬢で、ゲームではサマーパーティーでエミールから婚約破棄されて断罪されるのだ。
そう危惧していたけれど、最近ではエミールとの仲も少し良くなってきたし、ゲームみたいに婚約破棄されないかもしれないと私は少しずつ期待するようになっていたのだ。
でも、それは甘かった。
いきなり、ゴモラの街でスタンピードが起こったという報告があり、魔物退治にエミールと聖女が一緒に行くことになったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
さて、魔物討伐で聖女と王太子の仲が急接近するのか?
続きは今夜です。